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【最新デジタル&家電用語解説】スマート家電が生まれた背景や課題を解説 

今話題の「スマート家電」って何だ?

先日、2012年8月21日に行われたパナソニックの発表会で、「スマート家電」という言葉のもと、6種類の家電製品が発表され話題を呼んだ。しかし、その反応は必ずしも好意的なものばかりではなく、インターネット上でも賛否両論の議論が巻き起こっている。そもそもスマート家電とはどういったものなのか? そして、スマート家電は家庭の中でどのように役に立っていくのか? そのあたりのわかりにくい部分を解説してみたい。

インターネットとつながる家電製品−それが「スマート家電」

そもそも「スマート家電」とは何か? 答えは実に簡単だ。「インターネットとつながる家電製品」、それがスマート家電の基本的な定義である。ちなみに、この中にはもともとインターネットと接続されることを前提としたパソコンやその周辺機器は含まれない。いわゆる「白物家電」で、インターネットと何らかの形で接続できるものを、一般的に「スマート家電」と呼んでいるのである。


しかし、それならば「ネット家電」でいいのではないか? そんな疑問の声も聞こえてきそうだ。確かにその通りで、インターネットに接続できる家電製品であれば「ネット家電」と呼ぶほうがふさわしい。実際、少し前まで、この手の家電製品はそのように呼ばれていた。それがどうして今「スマート家電」と呼ばれるようになったのか。そこには、インターネット接続に関する技術の進化が影響している。


話を数年前にさかのぼると、インターネット上からレシピデータをダウンロードし、それを電子レンジに読み込ませて使うオーブンレンジ「RE-M210(インターネット DE これつくろ!)」がシャープから発売されたのは1999年のこと。「インターネットレンジ」と呼ばれた同製品が、いわゆる「ネット家電」の走りと言っていいだろう。その後、松下電器産業(現パナソニック)などもこの手の製品を発売したが、当時はまだインターネットの接続環境はモデムが中心で、データの使い方も、いったんパソコンでダウンロードしたデータをSDメモリーカードにコピーしてから、電子レンジに受け渡すというもので、あまり使い勝手がいいとは言えなかった。その後、東芝などからもBluetooth機能を搭載し、インターネットと接続できる冷蔵庫や洗濯機、オーブンレンジなどが発売されたりもしたが、どの製品も話題は呼んだが、それほど成功はしなかった。

1999年に発売された、シャープのオーブンレンジ「RE-M210(インターネット DE これつくろ!)」

このように、実は「スマート家電」のもとになったアイデア自体は、すでに10年以上前に出ており、実際に製品化もされている。しかし、どれも成功することはなかった。その理由はいろいろあるだろうが、失敗の大きな要因として、家庭でのインターネット接続環境が、今ほど整っていなかったことがあげられるだろう。当時はまだモデムが主流で、ブロードバンドもほとんど普及していなかった時代。家庭内で無線LANを構築しているというケースも珍しかった。そのような状況で、インターネットと連動できる家電製品を発売しても、あまり実用的とは言えなかったのだ。

そんなわけで、この「ネット家電」というアイデアは、長い間、家電業界でも忘れられたようになっていたのだが、最近になってこのアイデアを再び蘇らせるための条件が整ってきた。今や、インターネット回線は各家庭に行き渡り、常時接続が可能なブロードバンド回線となっている。しかも、多くの家には無線LAN環境が整備されており、無線LANアダプターさえ組み込んでしまえば、どんな家電製品でも簡単にインターネットに接続できるようになる。このアイデアは、どちらかといえば、テレビやブルーレイレコーダーなどの黒物家電で先に採用され、テレビの場合は「スマートテレビ」と呼ばれるようになるのだが、これに合わせるようにして出てきたのが、白物家電の「スマート家電」というわけだ。

「スマート家電」を実現させた大きな存在は「スマートフォン」と「タブレット端末」

ただ、白物家電の場合、テレビなどの黒物家電と違って、いくつか超えなくてはいけないハードルもある。テレビなどの映像機器の場合、インターネットと接続することで、電子番組表などのデータダウンロードをはじめ、インターネットブラウジングやストリーミング視聴など、もともとパソコン用に用意されていたさまざまなコンテンツをそのまま使うことができた。家電メーカーとしてはハードウェアさえ用意すれば、あとはそれほど苦労することなく、インターネット接続機能をプッシュできたのである。しかし、白物家電の場合、パソコン用に用意されていたコンテンツは流用できない。つまり、メーカー側も、その活用シーンまでを考えたコンテンツ提供をしなくてはいけないのである(たとえば、電子レンジのレシピデータなど)。それも、パソコン経由のような難しいものではなく、直感的に使えることが重要だ。これが第一のハードルといえる。

さらにもうひとつのハードルとして、ネットワーク機能をどのように搭載するかという問題があった。テレビやブルーレイレコーダーの中身はパソコンとそれほど変わらず、そこには情報処理用のCPUやメモリーなどが搭載されているため、ネットワーク機能を搭載するのも簡単だった。しかし、電子レンジや冷蔵庫、炊飯器などの白物家電には、それほど複雑な処理を行うための機能は備わっていない。ここにネットワーク機能を載せるためには、さまざまなデバイスの追加が必要となり、当然ながらコストが上がってしまう。それでも、それなりの価値を提供できればいいのだが、そこまで必要とされるような価値を見いだしにくいのも確か。これが第二のハードルとなる。

この2つの大きなハードルがあったため、白物家電のネットワーク化は事実上無理だと思われていた。しかし、ここへ来て、この問題を一気に解決してくれそうなデバイスが登場したのである。それが、「スマートフォン」(タブレット端末含む)だ。スマートフォンは、よく「超小型パソコン」といわれるように、その中身はパソコンと非常に似ている。アプリを開発すれば、さまざまな用途に使うことができる点もパソコンと同じだ。しかも、パソコンと違って気軽に持って歩くことができ、場所を問わずに使うことができる。

こうしたスマートフォンの特性を生かすことで、上述の問題を2つともクリアできるのだ。まず2つめに紹介したネットワーク機能の問題だが、そもそもスマートフォンはそれ自体でインターネットに接続できる機能(3G回線)を持っている。しかも、無線LAN機能を搭載しており、家庭内LANとの接続もワイヤレスで行うことができる。さらに加えて、製品によっては、近距離通信規格の「Bluetooth」や「FeliCa」「NFC」「赤外線通信」などの無線通信機能も搭載している。こうしたさまざまな通信機能を使うことで、白物家電側にそれほど複雑な処理を行うようなデバイスを搭載しなくても、スマートフォン側に通信や処理全般を任せることができるのだ。

パナソニックが今回発表した「スマート家電」製品は、そのほとんどが「NFC」(FeliCa含む)を用いた通信機能を搭載しているが、これもこうした理由によるものと思われる。NFCは、機器と機器を近づけないと通信できないほどの微弱な電波で動くため、デバイス自体を極小化できる。しかも、操作メニューの動作や処理がスマートフォン側のアプリで行うので、機器間で通信されるデータ自体は非常に単純なものになる。これならば、白物家電側に複雑な処理を行わせるデバイスは必要なくなる。スマートフォンの特性をうまく生かすことで、ハードウェア的な問題をクリアしているのである。

最新のスマートフォンの多くは「NFC」や「FeliCa」に対応。写真は、4.6型(720×1280)の大型液晶ディスプレイを搭載する、パナソニック製のスマートフォン「ELUGA V P-06D」。「FeliCa」に対応している

そして、もう1つの問題であるコンテンツ提供については、スマートフォンとともに進化してきた「クラウドサービス」(Webサービス)が大きなカギとなっている。これまでのインターネットサービスは、コンテンツを提供する側とそれを受ける側が別々になっていた感があるが、さまざまなクラウドサービスが発展してきた今では、ユーザーが自分自身の生活記録や、データ共有などのために、クラウドサービスを積極的に利用している。特に、手軽に使えるスマートフォンの普及によって、いつでもどこでも自分の生活記録をクラウド上に保存するという行為が、自然と当たり前のようになってきている。その端的な例が、「Twitter」や「Facebook」に代表されるようなソーシャルネットワークだが、このほかにも、さまざまなアプリを用いて、体調管理の記録や、料理の記録、家計簿の記録などがクラウド上に行われているのだ。つまり、これらのクラウドサービスと連携する記録アプリを作れば、家電メーカー側としても、レシピデータのような膨大なデータを初めから用意する必要もなく、ユーザー側で自動的に活用してくれるというわけだ。

パナソニックが今回発表した「スマート家電」でも、エアコンや冷蔵庫における「使用電力の記録」や、健康器具における「ダイエットメモ」や「血圧管理」などが、まさにこれに当たる機能だ。これまでこうしたログデータの活用はパソコン上だけにとどまっていたが、スマートフォンとクラウドサービスの登場によって、こうしたログデータの活用が非常に行いやすくなり、かつ実用的になったといえる。もちろん、従来通りのレシピデータの提供や、マニュアル機能、リモコンとして使える機能などは、アプリによって提供される。

このように、スマートフォンやタブレット端末の登場によって、これまでネット家電のハードルとなってきた問題がある程度解決されるに至った。スマートフォンやタブレット端末は、今のところ、小型のインターネットブラウジング機器として普及している面が大きいが、実はこうした家電製品や家庭内の電気管理のコントロールセンターとしても、非常に相性がいいデバイスなのである。住宅関連で最近よく聞く「スマートハウス」という言葉も、こうしたスマートフォンなどをコントロールデバイスとして、電気周りを一元管理するという構想の下に成り立っている。これなども、スマート家電とよく似た発想と言っていいだろう。いずれにしても、スマートフォンやタブレット端末が、家庭内のコントロールデバイスとして非常に期待されている存在であることは間違いない。

ようやく動き出した「スマート家電」。その問題点とは?

このように、スマートフォン(タブレット端末含む)の普及によって、一気に動き出した感のある「スマート家電」だが、もちろん懸念点もないわけではない。それは、もっとも単純にして根幹的な話なのであるが、「はたしてその機能が本当に必要なのかどうか?」という点である。

たとえば、今回登場したパナソニックの「スマート家電」の製品群を見ると、その顔ぶれは、エアコン、洗濯機、冷蔵庫、炊飯器、電子レンジ、体組成バランス計、活動量計、血圧計の8製品(炊飯器と電子レンジは6月に発売済み)。この中で、本当にインターネットと連動したほうが便利なものがいくつあるだろうか。

パナソニックは2012年8月21日、Androidスマートフォンとの連携機能を備えた「スマート家電」を一挙発表。ルームエアコン、洗濯乾燥機、冷蔵庫、体組成計、手くび血圧計、活動量計の新モデルがお目見えした

たとえば、体組成バランス計、活動量計、血圧計といった健康器具に関しては、前述のように長期間にわたるログデータの記録と分析は非常に有効な分野といえる。これまではパソコンとUSBケーブルなどで接続してログを記録していたことを考えると、ワンタッチでスマートフォンからクラウドまでデータを展開できるのは非常に便利だ。この分野については、「スマート家電」によるネットワーク化は非常に有効といえるだろう。

しかし、ほかの家電製品に関してはどうだろうか? パナソニックの今回の製品発表によれば、洗濯機、炊飯器、電子レンジの3種類に関しては、その使われ方は主にリモコンとしてのもの。スマートフォン上のアプリでメニュー選択し、対応製品の上にかざすことで設定内容が転送されるというものだ。もちろん、Webと連動したメニューなどは提供されるが、基本的にはそこまで行ってタッチしなくてはならず、せっかくの「スマート」がこれでは台無しになってしまう。近距離通信規格の「FeliCa」や「NFC」を使ったためのデメリットともいえるが、根本的な使い勝手としては、赤外線リモコン以下ではないだろうか。これにはたしてどれだけの価値を見いだせるのかは疑問である。

また、家庭の家電製品の中でも電力消費量の多いエアコンと冷蔵庫については、パナソニックが推し進めている「エコナビ」の概念に沿った省エネ情報がログとして記録され、エアコンについては電気代まで確認できる。これも非常に便利な機能(前述のスマートハウスの概念にも通ずる)なのだが、問題は、これを行うのがスマートフォンでなければいけない理由がないことだ。エアコンの場合、他社製品でも電力の見える化などはすでに行われており、リモコン側でログを確認できるものまである。しかも、今回発表されたエアコンの対応製品については、NFCで動作するものではなく、別途、オプションの「無線ゲートウェイ」と「無線アダプター」が必要となるため、製品単独ではこのスマート機能が使えない。逆にこの機能を組み込むことで、外出先からのエアコンのリモートコントロールなども行えるようになるため、非常に便利なのだが、オプションとなると導入をためらう人も増えるだろう。実は、離れた場所に設置され、リモコンでなければ操作できないエアコンこそ、この「スマート家電」にもっとも適した白物家電であるはずなのだが、なぜこの機能を標準搭載にしなかったのか疑問が残る。

このように、今回パナソニックから発表された「スマート家電」のラインアップとその機能を見ても、それが非常に価値のある機能だと思えるようなものはまだまだ少ないのが現状だ。もちろんこうした新機能については製品コストに還元されるので、勢い価格も高めになることが予想される。NFCの採用などアイデア的におもしろい部分もあるが、家庭内の家電製品を本当に「スマート」にコントロールするのであれば、やはり無線LANなど、ある程度到達範囲の広い通信技術の採用が必要となるだろうし、この分野でもっとも有望なエアコンについては、利便性を考えれば、最初から標準搭載でもよかったのではないかと思えてならない。メーカー側とすれば、その分の販売価格増を恐れたのかもしれないが、せっかく「スマート家電」を大々的にアピールするのであれば、それくらい踏み込んだ発表がほしかったところだ。

いずれにしても、この「スマート家電」というコンセプトは、まだまだ始まったばかりのものであり、今後さまざまなメーカーが参加していくことで、その内容ももっと洗練され、真に使いやすい「スマート」なものとなっていくだろう。もう少し技術が洗練されてくれば、リビングからスマートフォンやタブレット端末で、家庭内のほとんどの家電製品をコントロールすることだって夢ではない。ぜひ今後の展開に期待したい。

記事:価格.comマガジン編集長 鎌田剛

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