「新型」というよりも「新生」。そう表現したくなるくらい大きな進化…
(2013年6月19日掲載)
2012年8月3日掲載
今回の特別企画は、価格.comマガジンで連載記事を担当している、オーディオ・ビジュアル・ライターの野村ケンジ氏と、モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がタッグを組んでオーディオの“電源”についてマニアックな検証を実施。「電気自動車の電源をオーディオ機器用として使うと音質が変わるのか?」というテーマに沿って行った実験の様子を、野村ケンジ氏がくわしく解説&レポートする。
きっかけはちょっとした会話からだった。モータージャーナリストの鈴木ケンイチさんと食事をしていて、カーオーディオとホームオーディオの違いについての話題になったときだ。両者は電源の方式が異なっていて、クルマは12Vの直流、家庭用電源は100Vの交流となっている。鈴木さんは、「その違いがオーディオ機器のサウンドにどういった影響を及ぼすのか」「そもそも電源が変わると音が変わってしまうものなのか」と、常々疑問に思っていたらしいのだ。
確かに、どちらの電源にも音質的なメリット・デメリットがあって、「確実にこちらが有利」とは判断しがたい部分がある。たとえば、家庭用電源は、機器の内部に電気を取り込む際に直流に変換しなければならず、この変換部分でノイズが発生したり、微細な電圧変動が表れたりすることがある。いっぽうクルマの電源は、もともと直流のため変換にともなうデメリットは生じないものの、電圧が12Vと低いためそれぞれの機器用に電圧変動が必要となり、それが高周波ノイズの発生源となる可能性がある。さらにスパークプラグや(オルタネーター等の)モーター系など、ノイズ源となりやすい部品が間近にぶら下がっていることも弱点といえる。
このように、それぞれに音質を左右する要素が多々あるため、一概にどちらが有利とはいいきれないのだが、クルマ側には見逃せない要素がひとつある。それは、バッテリー(カーバッテリー)だ。
もともとスターターモーターを動かしたり、電気が不足したときにそれを補う役割もはたすバッテリーだが、本来の役割である電圧の安定とともに、ノイズフィルター的な役割を果たしてくれるのだ。ゆえに、質のよいバッテリーを搭載することで、カーオーディオの音質は激変することがある。もちろんオーディオ機器の設計者もそういった効果を熟知しており、バッテリーを搭載したホームオーディオ機器や、ホームオーディオ用のバッテリーなども少数ながらラインアップされていたりする。
ちょっと前置きが長くなってしまったが、いよいよここからが本題だ。
「だとすると、交流100Vの電源が取り出せるEVカー(電気自動車)って、家庭用電源よりも音質的に有利だったりするの?」(鈴木さん)
「確かに、その可能性は大きいですね。EVカーって、基本240Vじゃないですか。高電圧から降圧して利用するのって、実は家庭用電源でも優位といわれている方法ですし。また、普通のエンジンを使っているクルマと違ってスパークプラグはないし、止まっているだけならモーター系のノイズも発生しない。直流から交流への変換がどう影響を及ぼすかはわかりませんが、面白そう。試してみたいですね。」(野村 ※鈴木さんは一応大学の先輩ということもあって、おまけ程度に敬語をつけていたりする)
「じゃあ、実際にやってみようよ。クルマ借りてくるよ。」(鈴木さん)ということで、“家庭用電源とEVカー電源、音質的にはどっちが有利”という、なんともおかしな取材をまじめに行うこととなったのだ。
今回の取材のために鈴木さんが借用してきたクルマは、三菱自動車の「i-MiEV」。実は、こちらを選択した理由はちゃんとある。「i-MiEV」には「MiEV power BOX」というディーラーオプションが用意されており、これを活用することでクルマから手軽に交流100Vを取り出すことができるからだ。ちなみにこちらは、災害時や計画停電なども見据えた製品となっているようだが、電源のない屋外で利用したり、使い方次第ではi-MiEVを「スマートグリッド」の一部(蓄電システムとして)として組み込むことも可能になるなど、汎用性もなかなかに高い。使用可能時間は、今回借用したGグレード(バッテリー容量が16kwhあるタイプ)だと、1500Wの連続使用で約5〜6時間。これは一般家庭だとおおよそ1日分の消費電力量というから、オーディオを聴く分には十分以上の蓄電容量だ。
さて、今回の取材をできる限りの公平さで行えるよう、実際の試聴を行う、我が「ミニマムシアター」の電源まわりにもだいぶ手を入れることにした。まずブレーカーからの屋内配線と駐車場からの電源ケーブルには、アコースティックリヴァイブ製の「POWER MAX-10000」(14,700円/m)を使用。駐車場の場所の都合上、長さはイコールにできなかった(屋内配線は8m、駐車場からの電源ケーブルは15mと倍近い長さになった)ものの、高級製品を使用することで電源ケーブルがネックとなって音質差が生じることはできる限り回避した。また、どちらの電源ケーブルにも終端にインレット(12,500円。同社電源ケーブルに使われているものと同一のもので一般販売はしていないが、同社に問い合わせると直販してもらえる)を取り付けることで、電源をすばやく差し替えられるようにした。ちなみに電源タップは、同じアコースティックリヴァイブ製の「RTP-4ultimate」を使用している。
このほか、照明のオールLED化(といっても試聴時に点灯しない箇所は蛍光灯のままだが。ちなみにLEDはノイズ源となる可能性もあるが実際の効果としてはそれまで使っていた古い蛍光灯に比べて全然ましだった)や、パソコンやクーラー、冷蔵庫などを別系統の電源に繋ぎ直す(アパートの2部屋をブチ抜きで使っているためもう1系統の電源がある)など、接続されている機器を最小限にとどめることで、家庭用電源ならではの不利さを徹底排除している。
さて、これで言い訳のできない環境は整った。クルマも鈴木さん自身の運転で到着。「MiEV power BOX」の接続&電源オンを行い、いよいよ試聴をスタートさせることに。ちなみに、今回の試聴では、プレーヤーに「MacBook Air」のファーストモデル(再生ソフトは「Studio One」)、USB DACにラトックシステムズの「RAL-24192DM1」(246,750円)、パワーアンプに「ヤマハ101M」、スピーカーにTADモニター(TD-4001とTL-1601bの2ウェイ)を使用している。
もったいぶらず、結論を言おう。両者の差は圧倒的だった。圧倒的に、「i-MiEV電源」のほうがいい音だったのだ。まず、音量が異なって聴こえる。数値的に表すと1dBほどの差が生じているのでは?と思うほどで、これはノイズに起因する音圧の乱れや位相差などが低減されているからかもしれない。おかけで、メリハリのよいダイナミックな演奏を楽しむことができる。また、音のクリアさもケタ違いにいい。ピタッとフォーカスが合ったかのように、細部の表現がよく聴き取れるようになったため、音のリアルさも格段に向上している。それに比べると、家庭用電源の音は明らかに平坦で元気のない音に聴こえてしまう。「ピュア度が低い」と言うべきだろうか、どことなくざわついた印象も与える。
両者の差は圧倒的で、一緒に試聴していた鈴木さんも「僕を含め一般的な人が聴き比べてもわからないレベルの差しかなかったらどうしようかと思ったけど、ここまで違うとはっきり断言できるね。圧倒的にi-MiEVがいい。」といったほど。やはり直流240Vであること、バッテリー電源であること、他に機器の接続がないピュア電源であることは、音質に対して大きなアドバンテージをもたらしてくれるのだろう。これまで我が「ミニマムシアター」では体験したことのない、極上のサウンドであることは確かだ。
試しに、屋内配線にアコースティックリヴァイブ製のACスタビライザー(電源ノイズを除去するアダプター)「RAS-14」(59,850円)を接続し、i-MiEV電源と比較してみたところ、確実に改善はされるものの、両者の差はまだまだ圧倒的。もしかすると、数10万円レベルの電源ケアを施しても、i-MiEV電源の音にはかなわないかもしれない。そう思わせるレベルの高さがi-MiEV電源からは感じられる。
さらに、どの機器に対して大きな“音質的”効果を発揮しているのか確認すべく、機器を単体で繋いで試聴してみたところ、もっとも効果的なのがパワーアンプだった。逆に、USB DAC「RAL-24192DM1」についてはそれほどの変化は感じられなかった。もしかすると、機器側の電源ケアによって、効果のほどが変わるのかもしれない。少なくとも、パワーアンプなどのアナログ機器に関しては、i-MiEVの電源がかなりの効果を与えてくれることは確認できた。
今回のテストによって、「MiEV power BOX」を利用したi-MiEVの電源が、一般的な家庭用電源に対して圧倒的に(オーディオ的に)良質だということははっきりと確認できた。正直、このサウンドを体験した人間としては、すぐにでもオーディオ機器用の電源としてi-MiEVが欲しいと思ったほどだ。ホント、オーディオにとって、電源の良質さはとても重要だと再確認させられた1日だった。
もし現在i-MiEVを所有しているのならば、ぜひ「MiEV power BOX」を入手し、その電源でオーディオ機器を鳴らしてみてほしい。そのサウンドクオリティの向上っぷりに、思わずほれぼれしてしまうはずだ。EVカーというゼロエミッションなキャラクターや、スマートグリッド用のエコ電源や非常用の電源としても使えるだけでなく、オーディオ機器にも、大いなる恩恵をもたらしてくれる、まさに“すばらしい存在”だといえる。
ライター/野村ケンジ
ホームシアターやカーオーディオ、音楽・映像関連、クルマ分野など、幅広いジャンルで活躍するフリーライター。100インチスクリーン+TADモニターで6畳間極小ホームシアターを自宅で実践するなど、実験的な試みにも積極的にチャンレンジするこだわり派。サウンドコンテストの審査員なども担当している。