連載 - ライター・編集部員による定期連載 -

初心者にオススメしたい高級ヘッドホン入門 番外編 

イヤホンの音を手軽に向上できる「リケーブル」を楽しもう!

ヘッドホンやスピーカー、プレーヤー、アンプなど、オーディオに関するテーマを決めて実力派製品を複数回にわたって紹介する、野村ケンジ氏のオーディオ連載「Paradiso della musica」(パラディーゾ・デッラ・ムージカ)。今回は、連載の第1シリーズ「初心者にオススメしたい高級ヘッドホン入門」の番外編として、少々ディープな世界となる高級イヤホン製品の「リケーブル」について解説。あわせて、野村ケンジ氏が実際に試聴した良質なリケーブル製品を紹介しよう。

「リケーブル」って何!?

筆者のようなうっかりタイプの人間にはとてもありがたいことなのだが、カナル型イヤホン、なかでも高級モデルに関しては、ケーブル部分が取り外し可能な製品が増えてきた。


Ultimate Earsの「Triple Fi10pro」や、ゼンハイザーの「IE8」などの製品がケーブル交換可能なことは以前から知られていたが、Shureのカナル型イヤホンが全モデルで取り外し可能となった以外にも、ウェストンが「UMシリーズ」だけでなく「Westone 4」にもケーブル着脱式モデルを追加したり、オーディオテクニカが最高級モデル「ATH-CK100PRO」を取り外し可能なタイプにするなど、高級イヤホンの世界においては、「着脱式ケーブルは当たり前」とまでは言わないまでも、いまや大いなるアピールポイントとなっているのは確かだ。


実際、ケーブルが取り外し可能であることには大きなメリットがある。それは、本体とケーブル部では耐久性、平たくいえば壊れやすさが異なるため、分離できることでより長い間使い続けられる可能性が高まるからだ。そもそもケーブルは、断線やコネクター部の接触不良など、思ったよりも壊れやすいパーツである。ケーブルがダメになったからといっていちいち修理に出すのはおっくうだし、ましてや本体ごと買い替えるなんてもったいない。そういった状況を手軽に解決する手段として、着脱式のケーブルが採用され始めたのだ。


そう、これはもともと使用環境がシビアな、プロ用ヘッドホンの世界で浸透している方法論。それがカナル型イヤホンにも波及してきた、というのが実際のところだろう。ご承知のとおり、カナル型イヤホンは屋外での使用が前提で、ある意味ハードなシチュエーションに置かれている。だからこそ着脱式ケーブル採用の意義があるのだ。


しかし、ケーブルが交換できるという事実は、まったく違った目的をもつ製品と方法をも生み出した。それが「リケーブル」と呼ばれる、音質を向上させるためのケーブル交換だ。もともと、「リケーブル」という言葉は、「交換ケーブル」という意味でしかない。しかしオーディオ用語的には、「壊れた」からではなく「音を変える」ためにケーブルを交換する、という意味合いが強い。もちろん、壊れたから変える、耐久性を上げるために丈夫な品に交換する、というのもリケーブルには違いはないが、一般的には音質向上を主眼とした交換と認識したほうが無難だ。


そう、スピーカーケーブルは、交換すると音が変わる。それは紛れもない事実だ。わずか1〜2mのケーブルを交換しただけなのに、誰もがすぐにわかるくらい音が変わるのだ。


「またまた、そんな無責任なことを…」と思う方がいるかもしれない。しかし、そういった現象が起こるにはちゃんとした理由がある。そのひとつは、製品に付属しているケーブルが、あくまでも付属品レベルだということだ。いまさら「iPod純正のイヤホンと高級カナル型イヤホンが同じレベルの音質だ」と言い張る方はいないだろうが、そこまでのレベルの差はなくとも、かけられているコストが違うため(予算があるならイヤホン本体にかけたいと思うのがメーカーとしての本音だろう)、どうしてもクオリティに差が出てしまう。さらにいえば、メーカーは耐久性を重視、リケーブルを目的とした社外品は音質を重視しているため、結果に差がつくということもある。


もうひとつは、トレンドの問題だ。いま、市販のオーディオ用ケーブルでは、「PCOCC-A」という素材が多く採用されるようになってきている。これは、「PCOCC」(単結晶状高純度無酸素銅)という単結晶(!)素材に焼きなましを入れ、使いやすくしたものだが、音質といい手頃なコストといい、オーディオ用としてなかなかにすぐれているのだ。しかしメーカーの多くは、耐久性の観点から下手な冒険はなるべく避けたいという意向もあって、実績ある「OFC」(無酸素銅線)を使うケースがほとんど(予算がない場合はもっとスタンダードなTPCを使うこともある)。しかもコレ、純度を上げるととんでもなく高価になってしまうため、どうしてもそこそこのレベルで妥協せざるを得ない。ゆえに、音質に差が出てきてしまうのだ。


というわけで、そこそこの価格で結構音がよくなる、市販製品による「リケーブル」がこのところはやり始めているのである。もちろん、すべてのカナル型イヤホンで一律に音がよくなるわけではない。高級モデルの中にはケーブルに力を入れている製品もあるし、本体との相性もあるため良好なバランスをかえって崩してしまうケースもある。しかも、厳密にいえばケーブル交換は「音をよくする」行為ではなく、その製品(この場合はイヤホン本体)が「本来の実力を出せるようになる」だけに過ぎないことも事実。そのためにかけてもいいと思える予算は、人によってまちまちだろう。


ゆえに、以下の製品紹介では、「リケーブルを楽しむ」ことに主眼をおきたいと思う。要するに、厳密な音質向上の度合いよりも「どういった音色になるか」を伝え、さらには、カラーリングや使い勝手など、ファッション的な意味合いも含めたトータル面から良品を紹介させていただきたい。お気軽に「リケーブルってなんか楽しそうだぞ」と感じてもらえれば幸いだ。

“はじめてのリケーブル”に最適な良品を紹介

SAEC SHC-100FS

●販売価格 0.8m:11,235円、1.2m:12,600円、1.6m:14,700円

Shureカナル型イヤホン用の交換ケーブル。導体にPCOCC-A素材を採用し、左右独立のツイストペアケーブル構造とすることで、ノイズに強くセパレーション特性のよい高解像度再生を追求。ケーブルを耳の後ろに回す「Shure掛け」に対応しており、耳掛け部分がフレキシブルに曲がる機能も装備する。

インプレッション
全体が黒基調の製品で、ストレートタイプの端子もSAECのロゴが入っているのみ。小サイズのためiPhoneケース装着時でもスムーズに使えそう、という感想を持つ程度で、決してスタイリッシュだとは思わないが、そのサウンドはすばらしいのひとこと。とにかくクリアでダイレクト感が高いのだ。「SE535 Special Edition」で聴くと、今までの音がかなりくぐもっていて、伸びやかさが失われていたことが一聴でわかる。音質にこだわりたい人には、もってこいの製品だ。

Shure「SE535 Special Edition」に「SHC-100FS」を装着したイメージ


SAEC SHC-100XFS

●販売価格 0.8m:13,125円、1.2m:14,490円

この記事を執筆している最中に、「SHC-100FS」のスペシャルモデル「SHC-100XFS」の登場のニュースが舞い込んだ。同時に試聴サンプルも借用することができたので、いち早く詳細を紹介しよう。外観からわかる「SHC-100FS」との違いは、全体がレッドカラーでコーディネートされていることと、ストレートでなくL字コネクターを採用していること。このほか、導体にPCOCC-A素材を、構造に左右独立ツイストペアケーブルを採用しているのは同じ。「SHURE掛け」対応のフレキシブルに曲がる耳掛け部分も変わらずに装備している。

インプレッション
「レッドカラー」がなんともいい。同じく赤い筐体を採用するShure「SE535 Special Edition」とは、だいぶ色合いの異なる、明るい色調となっているが、同じ赤系統同士なのでコーディネート的な相性はよい。L字コネクターは、個人的には使い勝手がよいと思うが、こちらはあくまでも好み次第だろう。

驚いたのはそのサウンドだ。「SHC-100FS」でもかなり良質だとは思ったが、「SHC-100XFS」はさらにその上を行くクオリティ。特に高域が伸びやかで、ピアノの音などは濁りのない、心地よい響きが楽しめる。内部的には、コネクター接合部分に使うハンダの素材を変えただけというが、それだけでここまでクオリティアップするとは、ただ驚くばかり。2,000円程度の上乗せでこの音になるのなら、こちらを選ぶのがベターだ。少なくとも「SHC-100FS」とどちらにしようか悩んでいるのなら、迷わず「SHC-100XFS」をオススメしたい。

Shure「SE535 Special Edition」に「SHC-100XFS」を装着したイメージ


FiiO RC-UE1

●販売価格 1.3m:5,250円

ポータブルタイプのヘッドホンアンプで有名なFiioブランドから発売された、Ultimate Ears「Triple Fi10pro」用の交換ケーブル。「Triple Fi10pro」以外にも、カスタムイヤーの「Super.fi 5 Pro」や「Super.fi 5 EB」のほか、M-AUDIOの「IE-40」などにも使用可能となっている。ケーブルはオヤイデ電気製のPCOCC-Aで、HPC-23Tを左右独立のツイストペア構造で使用。シース(ケーブル皮膜)は極端な曲げにも対応可能な柔軟性をもつTPEを採用する。また24金メッキが施されたステレオミニプラグは、カバーにクロームメッキが施されたFiiOオリジナルデザインとなっている。

インプレッション
自然で整いのよい音。解像度感は純正に対して明らかに向上しているが、とにかくバランスのよい音楽を聴かせてくれる点がうれしい。カラーはブラックを基調としながらも、クロームメッキが施されたコネクターなどなかなかにオシャレだ。

Ultimate Ears「Triple Fi10pro」用の交換ケーブル「RC-UE1」


オヤイデ HPC-UE

●販売価格 1.0m:7,875円、1.3m:8,190円

「RC-UE1」と同様、Ultimate Ears「Triple Fi10pro」用の交換ケーブル。Fiioブランドだった「RC-UE1」に対し、こちらはオヤイデブランドとなる製品。ケーブルは同様にPCOCC-Aを採用し、シースには電気特性にすぐれたフッ素樹脂と銀メッキOFCによる編組シールディングが組み合わされている。また、ケーブル自体に形状保持性を持たせることで、ワイヤーレスながらも耳かけ装着を実現している。ステレオミニプラグには、定評あるオヤイデ電気製銀ロジウムメッキプラグ(P-3.5SR)を採用する。

インプレッション
高域が伸びやかで、インパクトのあるサウンド。見かけ同様、少々派手なイメージの音にも思えるが、少なくとも「Triple Fi10pro」は本来こういった特徴をもつ、ヌケのよいサウンドが信条なので、相性的にはなかなかによいといえる。ケーブルは少々硬いものの、クリア&メタリックの見栄えはかなりよい。音もデザインも「ケーブル換えました」とはっきり主張してくれる、リケーブルしがいのある製品だ。

Ultimate Ears「Triple Fi10pro」に「HPC-UE」を装着したイメージ


ZEPHONE Nashville EL-7(Shure用)

●販売価格 1.2m:7,980円

1997年設立の中国メーカー「ZEPHONE」のリケーブル製品。多数のラインアップを並べる中、この「Nashville」はShure用の交換ケーブルとなっている。鮮やかなブルーカラーのケーブルを採用し、ノイトリック製L型プラグや金メッキMMCXコネクタなど、クオリティや耐久性に対してもかなりのこだわりがうかがえる。コネクター付近のケーブルは、ワイヤーこそないものの、上から被覆されたチューブにより、あらかじめ耳掛け時に都合のよい形状が保持されている。

ちなみにZEPHONEでは、この「Nashville」以外にも、ゼンハイザー「IE8」「IE80」用の「Vocalise(EI-4)」、ウェストン「UM3X」「Westone 4R」用の「Faithful(EW-2)」、エティモティックリサーチ「ER-4S」「ER-4P」用の「Avenger S(EE-1)」「Avenger P (EE-2)」などもラインアップしている。価格はすべて同じだが、ケーブルの色や素材が多少違うので、音質的にも多少傾向が異なる可能性がある。いずれにしても、リケーブルできるイヤホンはすべてフォローしているのではないか、と思えるほどの充実したラインアップだ。

インプレッション
編み込まれたブルーのケーブルは、なかなかにオシャレ。ノイトリック製プラグとの組み合わせも、それほど悪くない。そのサウンドには「ほう、こんな聴かせ方もあるのか」と少々驚かされた。スタジオモニター的なShureらしいバランスと、明確で張りのある音は影を潜め、自然な響きの音色に変化。心地よい響きを楽しませてくれるのだ。解像度感は確実に向上するものの、それがあまりに自然で、まったく嫌みにならない。「Shureサウンドは大好きだけど、たまには癒されるような聴き方をしたい、あっさりBGM的なサウンドもできればいいのに」と思っていた人にはピッタリの製品かもしれない。

ZEPHONEは、ウェストン「UM3X」「Westone 4R」用の「Faithful(EW-2)」なども用意している


ZEPHONE  Silver Dragon MKII

●販売価格 EL-8(Shure用)1.2m:9,975円、EI-11(ゼンハイザーIE8/IE80用)1.2m:9,975円、EW-6(ウェストンUM3X/Westone4R用)1.2m:9,975円

Shure用交換ケーブル「Nashville」の上位モデル。Shure用以外にも、ゼンハイザー「IE8」「IE80」用、ウェストン「UM3X」「Westone 4R」用のバリエーションが用意されている。シースはシルバーカラーを採用。細めのケーブルを編み込みしている点も「Nashville」と同様だが、編み方は異なっている。3.5mmのステレオミニプラグは、ノイトリック製のL字タイプを装備。端子は金メッキ処理され、音質、耐久性の両面で配慮がなされている。イヤホン接続部の近くも「Nashville」同様、上から被覆されたチューブにより、あらかじめ耳掛け時に都合のよい形状が保持されている。

インプレッション
細身ながらもケーブルは結構硬めで、取り回しには慣れとコツがいりそうだが、その分絡みづらいという利点もある。透明シースにシルバーカラー線のケーブルは、よく見ると黒の細いラインも描かれており、見方によってはジュエリー的なイメージも漂っている。なお、これはウェストン用に限ったことだが、イヤホンとのコネクターがはまりきらない点は気になった。もしかするとわざとそうしているのかもしれないが、決して見栄えのよいものではないので、今後の改善を望みたい。ちなみにShure用はまったく問題なかった。

試聴はShure用の「EL-8」に「SE535 Special Edition」を、ウェストン用の「EW-6」に「Westone 4R」を装着して行った。そのサウンドは、かなりの個性派。突き抜け感のある高域はとても存在感があるが、曲によってはそれがしつこく感じる場合もある。いっぽうで、低域は、かなり締め上げられたイメージで、量感をしっかり確保しながらも、曖昧さを払拭してフォーカス感を高めてくれる。こういった個性的なサウンドのためか、「SE535 Special Edition」との相性はかなり悪く、帯域バランスがかなりおかしなことになる。「SE215」との相性はそれほど悪くはなかったので、これは「SE535 Special Edition」に限った話だろう。逆に、「Westone 4R」では個性がうまく生かされ、印象度の高い音色とリズム感のよいサウンドを楽しめた。同じケーブルなのにここまで音が違って聴こえるのは、本当に面白い。

「SE535 Special Edition」に「Silver Dragon MKII」(EL-8)を装着したイメージ

「Westone 4R」に「Silver Dragon MKII」(EW-6)を装着したイメージ

 

まとめ

今回のリケーブル製品の紹介は、量販店でも入手可能なものにとどめたため、アイテム数は限られてしまったが、世の中にはこのほかにもいろいろな製品がラインアップされている。ヘッドホン用や自作も含めると、その可能性はまさに無限大。ぜひとも「リケーブル」する楽しさ、「愛機の音が変わる」おもしろさを、大いに満喫してほしい。


ライター/野村ケンジ

ホームシアターやカーオーディオ、音楽・映像関連、クルマ分野など、幅広いジャンルで活躍するフリーライター。100インチスクリーン+TADモニターで6畳間極小ホームシアターを自宅で実践するなど、実験的な試みにも積極的にチャンレンジするこだわり派。サウンドコンテストの審査員なども担当している。

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