連載 - ライター・編集部員による定期連載 -

小寺信良のGadget 2 Go! 第52回 

思わず笑っちゃう低音、SONOCORE「COA-803」

日本でのイヤホン、ヘッドホンブームは一時的なブームにとどまらず順調に推移して、そこそこ高い売り上げをキープしたまま定着しそうである。以前は実際に音を聴いてから買うというのが主流だったが、最近ではある程度ネットの評判を見て通販で買っちゃうみたいな行動パターンも生まれ、イヤホン専門サイトも人気を博しているようだ。

今回はあまり取扱店が多くないが、韓国SONOCORE社の「COA-803」という面白いイヤホンを入手した。ルックスはちょっと無骨で大きめなのだが、驚くなかれ、なんとダイナミック型ドライバをデュアルで実装するという、詳しい人が聞いたら「バカスwww」と笑ってしまうようなことを実際にやってのけてしまったイヤホンなのだ。

ダイナミック型ドライバをデュアル実装、COA-803

デュアル、トリプル実装は、ドライバが小さいバランスド・アーマチュア(BA)だからできるというのがこれまでの常識だった。特にBAは低域の特性までをバランス良く伸ばすことが難しいため、低域用と中高域用を分けるという、いわゆる2WAYスピーカーと同じ発想で作られたものである。

マルチドライバでよく知られたところでは、ShureのSE535/535LTDやSE425あたりが有名だが、いくらShureでもダイナミック型をマルチで使ったものはない。ダイナミック型は口径が大きくなれば低域は出しやすいので、わざわざイヤホンでドライバを分ける必要はないということだろう。

もちろんバランス良く出すということを考えれば、ダイナミック型のシングルドライバで十分である。だが必要以上に低域を出すにはどうしたらいいか、ということを考えると、これは当然ウーファーを突っ込む、という発想になる。

低域過多だがバランスは悪くない

COA-803は、10mm径のウーファーと6mm径のツイーターを直列に配置した、珍しいイヤホンである。音はさぞや族車のようにドッコンドッコンいうのだろう、と思われるかもしれないが、実は意外にちゃんとまともな音が出る。

収納に便利な缶ケースも付属

もちろん低域過多であることは間違いないが、低域がすべてをぶちこわすような出方ではなく、「これはこれでアリ」という、上手いまとめ方をしたなという印象だ。HR/HM系ではちょっと低域出過ぎのような印象もあるが、元々HR/HM系のリスナーは重低音を聞きたいために音量を上げすぎて耳を壊す傾向があるので、COA-803を使えば耳の負担なく重低音を楽しめるだろう。

テクノ、エレクトロ系、あるいはフロア、ダンス系など比較的隙間が多いジャンルにも合うだろう。低域の輪郭がしっかりわかるので、リズムがより楽しめるはずだ。

あまり向いてないのはプログレのような音が込み入ったもの、あるいはクラシカルロックのような中音域に音が固まっているようなものだ。これは低域が伸びた分、全体的にぐしゃっとした感じに聞こえるので、好まれないだろう。ジャンルを選ぶという意味では万人に勧められるものではないが、漠然と「いい音」を謳うものよりも、こういう「狙った音」そのままの企画型イヤホンが、今後は伸びるのかもしれない。

なお日本向けパッケージでは初回生産分のみ、3サイズのシリコンチップのほか、同じく3サイズのメモリーフォームチップも付属するそうである。価格も6,500円とそれほど高くもない。個人的なフィット感の違いもあるかもしれないが、筆者が聞いた限りではシリコンチップのほうが高域の延びがいいようだ。

初回生産のみ3サイズ2タイプのイヤーチップが付属

たまに辛い物が食べたくなるみたいに、時々低音大盛りにして聞きたくなることもあると思う。そういうときに、実にイイ感じでなってくれるイヤホンだ。ただしキック力が物凄いので、これに慣れてしまうと、上品なバランスのSE535などを聞いたときに壊れてるんじゃないかと錯覚してしまう。まさに劇薬のようなイヤホンが市場に出て、それで成立してしまうところは、我々日本人のヘッドホン文化の奥深さを感じる。

ライター/小寺信良

AV機器評論家/コラムニスト。デジタル機器、放送、ITといったメディアを独自の視点で分析するコラムで人気を博す。主な連載は、AV Watch「小寺信良の週刊Electric Zooma!」「ケータイの力学」など。

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