連載 - ライター・編集部員による定期連載 -

野村ケンジの「Paradiso della musica」(ムジカ・パラディーゾ) 

ヘッドホンの音も重視したUSB DAC選び 第2回

ヘッドホンやスピーカー、プレーヤー、アンプなど、オーディオに関するテーマを決めて実力派製品を複数回にわたって紹介する、野村ケンジ氏のオーディオ連載「Paradiso della musica」(パラディーゾ・デッラ・ムージカ)。今回は、連載第2シリーズとなる「ヘッドホンの音も重視したUSB DAC選び」の2回目。野村氏厳選のUSB DACを紹介する。

第2回 ポータブルHPA(ヘッドホンアンプ)としても人気のUSB DAC

最初の1台としてUSB DACを選ぶ場合、定評ある高級モデルをチョイスするのがもっとも間違いないのは確かだが、そこまでの冒険がなかなかできない心境もよくわかる。数千円で手に入る“安かろう悪かろう”は避けたいものの、できればコストパフォーマンスが高く、可能であればバッテリー内蔵のポータブルヘッドホンアンプなど、デスクトップ以外でも使えるとありがたい。今回は、そんな人にオススメの2ブランドを紹介しよう。

人気のibassoから新モデル「D5 Hj」が登場!

iBasso Audioの新モデル「D5 Hj」

iBasso Audio(アイバッソオーディオ)は、2006年に中国で設立されたヘッドホンアンプやDAC開発をメインとするメーカーである。いわゆる新興ブランドなのだが、実力の高さはすでに世界中に知れ渡っていて、日本においても、ヒビノインターサウンドによる正規輸入が始まる以前から人気を集めていた。このibassoがラインナップする製品のうち、「D2+Hj Boa」や「D12 Hj」など、いくつかの製品がUSB DAC機能を有するが、今回はこの7月に発売される「D5 Hj」を紹介しよう。


実はつい先日までD12 Hjをオススメするつもりでいたのだが、D5 Hjの音を聴いて急遽、こちらを推薦することにした。確かにヘッドホンアンプとしての実力は、SNやセパレーション(左右音声の別れ方や空間表現)の優秀さ、ウォルフソン製DACチップならではのリアリティあふれる音楽表現など、D12 Hjのアドバンテージは多々ある。しかしUSB DAC機能を“主”、ヘッドホンアンプとしての実力を“従”と見るような今回の基準では、D5 Hjの実力がとても際立ってくるのだ。


その理由は内部システムの違いにある。D5 Hjは、AKM(旭化成エレクトロニクス社)製DACや192kHz/24bitのアップサンプリング機能(USB DACとしては96kHz/24bitまで対応)などを採用することで、SN的にもダイナミックレンジ的にも、ポータブルタイプとは思えないサウンドクオリティを有しているのだ。

USB DACとしてもポータブルヘッドホンアンプとしても高いレベルを実現

実際のサウンドは、ストレートかつ端正なイメージ。全体的に歪み感が少なく、解像度感もかなり細やかだ。特筆なのは低域で、フォーカス感もキレもよく、演奏がタイトにリズム感よくまとまってくれる。いっぽうで中域は、淡々と音が並ぶきっちりした演奏。サイズがほぼ同じD2 +Hj BOAの、押し出し感が強くノリのよさで演奏を楽しく聴かせようとする傾向とは全く逆方向の、どこまでも自然で、細部までていねいに再現しようと心がけた雰囲気を持つインテリジェントなサウンドだ。それでいながら、平坦でつまらない音には陥らず、抑揚感の豊かな点はさすがibassoだ。

USB DACとしてのパフォーマンスを重視しつつ、ポータブルヘッドホンアンプとしても頻繁に活用したいという人には、理想的な選択肢のひとつといえるだろう。


総論 ibasso D5 Hj

<オススメポイント> ポータブルヘッドホンアンプとしても活用できるコンパクトさに加えて、USB DACとしての実力は兄弟モデルのなかでも頭ひとつ抜きん出ている。
<ウイークポイント> ヘッドホン出力のサウンドだけで比較すると兄弟モデルがあまりにも優秀過ぎて迷ってしまうこと。

・解像度感 ★★★☆☆
・SN感 ★★★☆☆
・ダイナミックレンジ ★★★★☆
・デザイン ★★★☆☆
・コスト ★★★★☆

合体ワザでポータブルHPAとしても据置型USB DACとしても魅力を発揮する
「Fiio E7 + Fiio E9」

Fiioの最上級モデル「E7」

Fiioといえば、いまやポータブルHPA(ヘッドホンアンプ)の代表格ともいえるメジャーなブランドだ。なかでも第6世代iPod nanoと大差ないコンパクトサイズを持つ「E5」は、携帯性とともに、良質なサウンドやコストパフォーマンスの高さとも相まって、日本国内でも大いに好評を博している。


今回紹介するのは、そのFiioの最上級モデル「E7」だ。こちらは現在Fiio唯一となるUSB DAC機能搭載モデルであると同時に、2系統のヘッドホン出力や有機ELディスプレイ、低域ボリュームを3段階に調整できるイコライザー、音量メモリーなど多彩な機能を持つインテリジェントな製品でもある。


さらにiPadユーザーからは、このE7がカメラコネクションキット経由でUSB DACとして認識されることにも注目されている。iPadおよびiPad2は、消費電力量の監視がとても厳しく、ほとんどのUSB DACが「消費電力が大きすぎます」と利用を拒否されてしまう。電源供給タイプのUSBハブを経由すればどんなUSB DACでも問題なく使えるのだが、それではiPadならではの機動性が犠牲になってしまう。E7は、iPadでも利用できる数少ないUSB DACとしても重宝されているのだ(ただし、アップルはこういった活用に保証していないのでご注意あれ)。

このように、機能面だけでも充分魅力的なE7だが、USB DACとしては、サウンドクオリティを高める手段がまだある。それは同じFiioの製品、「E9」と組み合わせて活用することだ。

E9は、デスクトップ用のヘッドホンアンプで、USB DAC機能は持ち合わせていないものの、製品上部にE7用のドックポートが用意されており、そちらにE7を接続することでUSB DACとしての機能を果たすようになるのだ。

デスクトップ用のヘッドホンアンプ「E9」に「E7」を組み合わせて使用

確かにE7単体でもUSB DACとしての機能は完結しているが、この2つを組み合わせることで、アナログ音声出力のダイレクト感やメリハリが格段にアップする。E7本来の、整然かつ細やかではあるが人によっては大人し過ぎると感じてしまう音が、ぐいぐいと力強く押し出される中低域を持つ、グルーブ感のよいサウンドへと生まれ変わるのだ。これはパワーアンプの違い(同じTI社製でもE7の「TPA6130A」に対しE9は高性能の「TPA6120」)や筐体/電源部の余裕など、さまざまなメリットの積み重なった結果なのだろう。E9が、ポータブルであるE7の弱点を着実に補っている印象だ。メリハリが増した分、E7の持つわずかな歪み感や48kHz/16bit対応ゆえの表現力の限界も目立ってしまうが、リズム感のよい演奏はそれを補ってあまりある魅力を持つ。

さらにうれしいのが、ヘッドホンに対するドライブ力の高さだ。E9には高インピーダンス特性を持つヘッドホン用にゲイン切り替えが装備されているが、それを使う必要がないほど高い駆動力を示してくれる。実際ポータブルHPAにとってかなりの難敵といえるAKG 「Q701」が、ノーマルゲインのまま軽々と鳴りきってくれたのには驚いた。ここまでのヘッドホン出力を持つ製品は、据置型のUSB DACでもそう多くはないはずだ。

充電機能を含め、E7のドックポート的な役割を果たすE9が、実はE7より高価なのはかなりユニークだが、その分妥協のないサウンドをこの組み合わせでは楽しむことができる。E7を持っている人はもちろん、そうでない人も一度は体験してほしい音だ。


総論 Fiio E7 + Fiio E9

<オススメポイント> ポータブルHPA、据置型USB DACそれぞれにとって良好なサイズ/拡張性となる絶妙な組み合わせ。E9ヘッドホン出力の駆動力の高さも魅力。
<ウイークポイント> 2製品合わせると意外に高価となる。段階的に買いそろえていく方法もあり。

・解像度感 ★★☆☆☆
・SN感 ★★☆☆☆
・ダイナミックレンジ ★★★★☆
・デザイン ★★★★☆
・コスト ★★★☆☆

試聴環境について

今回の試聴は筆者の試聴室にて行った。使用したパソコンは、Acer「AS1410」というひと昔前のごくありふれたスペックを持つノートパソコンだ。ただしUSB DACとの接続にはSAEC製の高級USBケーブル「SUS-480」(0.7m/23,100円)を使い万全を期している。またUSB DACから出力されたアナログ信号はRCAケーブルでいったんAVアンプ(パイオニア「SC-LX71」)を経由してパワーアンプ(ヤマハ「101M」)へ伝達、TAD(パイオニアのプロ用機器ブランド)の「TL-1601b」(15インチ口径のウーファー)+「TD4001」(4インチ口径のホーン型ドライバー)の2ウェイスピーカーにてサウンドクオリティをチェックした。

またヘッドホン出力に関しては、ソニー「MDR-Z1000」とAKG「Q701」の2モデルを活用して音質確認を行っている。

SUS-480

ソニー「MDR-Z1000」

AKG「Q701」

評価ポイントについて

今回の評価ポイントは、下記の5項目について表記させてもらうことにした。満点は5点。このほか音の密度感や生々しさ、熱気の高さなども評価ポイントに加えたいところだったが、それらは複数の特徴によって作り上げられている(加えて主観的なニュアンスが高い)ものであるため、文章内に表現するのみにとどめている。

・解像度感……音のきめ細やかさ
・SN感……無音時の静けさ、音が出ているときのピュアさ
・ダイナミックレンジ……音の強弱の幅広さやニュアンス表現の細やかさ
・デザイン……純粋なデザインのよさに加えて使い勝手のよさも考慮
・コスト“音質”パフォーマンス……音質のよさと金額の高さを相対値として評価


ライター/野村ケンジ

ホームシアターやカーオーディオ、音楽・映像関連、クルマ分野など、幅広いジャンルで活躍するフリーライター。100インチスクリーン+TADモニターで6畳間極小ホームシアターを自宅で実践するなど、実験的な試みにも積極的にチャンレンジするこだわり派。サウンドコンテストの審査員なども担当している。

ページの先頭へ