連載 - ライター・編集部員による定期連載 -

野村ケンジの「Paradiso della musica」(ムジカ・パラディーゾ) 

初心者にオススメしたい高級ヘッドホン入門 第4回

野村ケンジ氏のオーディオ連載「Paradiso della musica」(ムジカ・パラディーゾ)の「初心者にオススメしたい高級ヘッドホン入門 第4回」。今回は、野村氏が「ユニークなコンセプト」をキーワードに厳選したカナル型ヘッドホン2モデルを紹介する。

第4回 ユニークなコンセプトを持つイヤホンたち

カナル型ヘッドホンは、大きく3種類のキャラクターに分類される。ひとつは「純正互換」、もうひとつはオーディオ用やハイファイ系などと呼ばれる「良音質モデル」、そして最後はプロユース前提の「モニター系」だ。シェアとしては、低価格の純正互換タイプが圧倒的だが、近年のイヤホンブームはオーディオ用の中高級モデルが中心だし、モニター系も音楽観賞用に使われる機会が多くなった。そんな幅広いラインアップをそろえる最新カナル型ヘッドホンの中から、今回は特にユニークな2モデルを紹介しよう。

ビクター「HA-FX700」 ウッドドーム振動板を採用するユニークなモデル

ビクターは、以前より幅広いラインアップを有している“ヘッドホン”のメジャー・ブランドである。当然のごとく、カナル型に関してもさまざな価格帯/バリエーションが用意されているが、なかでも際だった個性を主張しているのが、ウッドドーム振動板を採用する「HA-FX700」と「HP-FX500」である。

HA-FX700 HP-FX500

ビクター「HA-FX700」と「HP-FX500」

「ウッドドーム振動板」という呼び名を聞いても、多くの人はあまりピンと来ないかもしれない。要はヘッドホンの振動板に木材を使っているということなのだが、実はこれ、技術的にはかなり高度な話で、さらにチョイスとしても、とても珍しいのだ。

ヘッドホンの振動板には、プラスチックやカーボン、金属、紙などさまざまな素材が使われているが、木材を振動板に使うメーカーはまずない。なぜなら、木を振動板の形に加工することがとても難しく、加工できたとしても音質的な優良さと耐久性の高さを確保することが至難の業だからだ。しかしビクターは、ホーム用のスピーカーとして木製振動板(ドームでなくコーン型振動板のためウッドコーンと呼ばれている)を作り上げた技術力があり、それを応用して、「ウッドドーム」振動板を持つカナル型イヤホンという、希有な存在を作り上げたのである。

もちろん、振動板素材が珍しいという理由だけではわざわざ取り上げない。当然ながら、そのサウンドがとても特徴的で魅力あるからだ。それはズバリ、「木の音」がするのだ。「振動板が木なのだから当たり前じゃない」と思うかもしれないが、その当たり前のことが結構重要だったりする。思い出してほしい、アコースティック楽器の多くが、ボディに木材を多用して作られていることを。

木材には特有の響きの良さがあり、それがプラスチックや金属素材の振動板ではなかなか表現しきれなかったりする。各社とも、複合素材を活用するなどさまざまな工夫を凝らして近いニュアンスの再現を求めているが、木の音は木そのものから鳴る音に敵わないのである。

おかげで、HA-FX700でジャズやクラシックを聴くと、とんでもないリアリティを感じ取ることができる。アコースティックギターの胴鳴り、ピアノの筐体の響きやハンマーの感触、果てはホールの壁の素材感までも手に取るように感じられるのだ。さらにいえば、「いい木を使っているなぁ」などと、楽器そのものの上質さまで判別できるようになる。好きなミュージシャンの演奏をマニアックに楽しみたいとき、これほどありがたい製品はないだろう。

さて、「ウッドドーム振動板」採用モデルは2タイプあるが、オススメは高額なHA-FX700のほう。こちらのほうが凝った作りの分音質的に上級であることに加え、何よりも木の振動板ならではの特徴がより顕著に表れている。ぜひとも、このリアルな木ならではの美音を、皆さんにも存分に堪能してほしい。


総論 ビクター HA-FX700

<オススメポイント> 木の振動板ならではの整った倍音成分と減衰特性が生み出す自然で美しいサウンドは、他に類のない魅力をもつ。
<ウイークポイント> 低域の量感が多めな点は好みの分かれるところ。

解像度感 ★★★★☆
帯域バランス ★★★☆☆
帯域過渡特性 ★★★☆☆
高域の質感 ★★★★☆
低域の量感 ★★★★☆
グルーブ感 ★★★☆☆
装着感 ★★★★☆
デザイン ★★★★☆
コスト“音質”パフォーマンス ★★★☆☆


総論 ビクター HP-FX500

<オススメポイント> 木の振動板ならではの美音はミドルクラスのHP-FX500でも健在。帯域バランスはHA-FX700よりも好ましい。
<ウイークポイント> 振動板サイズがHA-FX700に対し約半分になるためか「木」ならではの特徴がやや薄いうえ解像度感も低い。

解像度感 ★★★☆☆
帯域バランス ★★★★☆
帯域過渡特性 ★★★★☆
高域の質感 ★★★★☆
低域の量感 ★★★☆☆
グルーブ感 ★★★☆☆
装着感 ★★★★☆
デザイン ★★★☆☆
コスト“音質”パフォーマンス ★★★★☆

クリプシュ「Image X10」 良好な帯域バランスを実現した上級モデル

ホームオーディオ用の大型スピーカーで有名な(人によっては劇場など業務用の印象が強いかもしれない)クリプシュが、iPodオーディオ機器やヘッドホンをリリースし始めたのはここ数年のこと。しかし、さすがオーディオ専業メーカーというべきか、そのサウンドクオリティやまとめ上げの巧みさに関しては、ただただ感心するばかりだ。もちろん、カナル型ヘッドホンに関してもそう。現在は数千円クラスから高級モデルまで幅広いラインアップを取りそろえているが、そのいずれもが広くオススメできる良作ばかりである。

その中でもユニークな存在となっているのが、上級モデルの「Image X」シリーズである。なかでも「X10」「X5」の2モデルは、まるで棒のように細い世界最小かつ最軽量のボディにバランスド・アーマチュア型ドライバーを1基搭載。楕円断面を持つ柔らかいイヤーピースとも相まって、1ドライバーとは思えない良好な帯域バランスと解像度感の高さを提供している。

Image X10 Image X5

クリプシュ「Image X10」と「Image X5」

ユニットが一般的な製品よりも少し耳穴の奥側へ入り込むため、最初は多少不安に思うかもしれないが、軽量コンパクトなサイズとフィット感のよいイヤーピースは、装着していることを忘れてしまうくらいの快適さを提供してくれる。これに慣れてしまった人は他のあらゆる製品が「重く」「わずらわしく」感じられてしまうほど、すばらしい快適性なのだ。そういった点では、とても魅惑度の高い製品といえるだろう。

もちろんサウンドに関してもかなりの優秀さを持ち合わせている。帯域バランスのよさを含め、音質傾向はとても自然なイメージ。楽器の音色が、ヴォーカルの声の特徴を素直に再現してくれる。しかもいい意味で音色的な個性が少ないため、音楽ジャンルの得手不得手もない。幅広くさまざまな音楽を聴きたい人にとっては重宝する製品だ。

Image X10とImage X5の違いは主に解像度感。音の細やかさに関しては圧倒的な差があるので、高価ながらここではImage X10を推薦しておこう。しかし両者に音色的な違いはさほどないため、どちらでもOKと感じたならばImage X5をチョイスすればいいだろう。


総論 クリプシュ Image X10

<オススメポイント> 小型軽量ボディからは想像できないくらい、自然でバランスの整ったサウンドが魅力。解像度感も高い。
<ウイークポイント> 装着位置が特殊なので慣れるまでちょっとした不安感を持つ場合も。

解像度感 ★★★★☆
帯域バランス ★★★★★
帯域過渡特性 ★★★★☆
高域の質感 ★★★★★
低域の量感 ★★★☆☆
グルーブ感 ★★★★☆
装着感 ★★★★★
デザイン ★★★★☆
コスト“音質”パフォーマンス ★★★☆☆


総論 クリプシュ Image X5

<オススメポイント> Image X10とほとんど変わらないナチュラルサウンドが魅力。
<ウイークポイント> Image X10に対して解像度感がかなり低くなる。装着位置の問題で慣れが必要なのはImage X10と同じ。

解像度感 ★★★☆☆
帯域バランス ★★★★★
帯域過渡特性 ★★★★☆
高域の質感 ★★★★☆
低域の量感 ★★★☆☆
グルーブ感 ★★★★☆
装着感 ★★★★★
デザイン ★★★★☆
コスト“音質”パフォーマンス ★★★☆☆

評価ポイントについて

カナル型ヘッドホンに関しては、下記の9項目の評価ポイントを表記させてもらうことにした。満点は5点。このほか、音の密度感やボーカルのクリアさ、音の生々しさや熱気の高さなども評価ポイントに加えたいところだが、それらは複数の特徴によって作り上げられているメリットのため、文章内に表現するに留めている。

・解像度感……音の細やかさ
・帯域バランス……低音、中音、高音のバランス
・帯域過渡特性……ピークやディップなど音楽を阻害する要素の少なさ
・高域の質感……高域方面のノビや倍音成分のそろいのよさなどを総合評価
・低域の量感……ここでは絶対的ボリュームより最低域へのノビや質感を重視して評価
・グルーブ感……ノリのよさを示す項目で各帯域のタイミングがそろうと高評価となる
・装着感……装着に関する手間や違和感の少なさ
・デザイン……デザインのよさに加えて音漏れなどの機能性も考慮
・コスト“音質”パフォーマンス……音質の良さと金額の高さを相対する値として比較評価


ライター/野村ケンジ

ホームシアターやカーオーディオ、音楽・映像関連、クルマ分野など、幅広いジャンルで活躍するフリーライター。100インチスクリーン+TADモニターで6畳間極小ホームシアターを自宅で実践するなど、実験的な試みにも積極的にチャンレンジするこだわり派。サウンドコンテストの審査員なども担当している。

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