連載 - ライター・編集部員による定期連載 -

野村ケンジの「Paradiso della musica」(ムジカ・パラディーゾ) 

初心者にオススメしたい高級ヘッドホン入門 第3回

野村ケンジ氏のオーディオ連載「Paradiso della musica」(ムジカ・パラディーゾ)の「初心者にオススメしたい高級ヘッドホン入門 第3回」をお届けしよう。今回は、野村氏が「ジャパンブランド」にこだわって厳選した、カナル型ヘッドホンの優秀機2モデルを紹介する。

第3回 ジャパンブランドの実力

プレーヤーやアンプなどのオーディオ機器においては、世界でも1位2位を争う技術大国である日本だが、スピーカーやヘッドホンの話になると一変、欧米メーカーの間で埋もれがちな印象になる。これはクルマなどと同じく、スピーカーやヘッドホンが、その製造において蓄積した経験則やノウハウが重要となるレガシーなカテゴリーだからかもしれない。しかし日本メーカーの中でも、国内外を問わず絶大な人気を誇り、優秀な製品をいくつも誕生させているブランドがある。今回は、そんな世界的な「ジャパンブランド」の優秀モデルを紹介しよう。

オーディオテクニカ「ATH-CK90PRO」 ダイナミックな“奔放サウンド”に注目

和製モニター系イヤホン。そんな呼び名がぴったりの製品に出会ったのは2008年のこと。オーディオテクニカの発表会で初めて耳にした「ATH-CK100」のサウンドは、端正で緻密で、ニュアンス表現もていねいで巧み。さらにはワイドレンジながら、密度感が薄まらない絶妙なチューニングを持ち合わせていた。そして何よりも驚いたのは、落ち着いた雰囲気のある音色傾向だ。高音はかなり伸びるが刺激的にならず、低音も芯がしっかりとしたうえで絶妙な量感。それでいて中域は凡庸にならず、しっとりとしたボーカルを聴かせてくれる。こういった大人っぽく客観的な音のするカナル型ヘッドホンは、これまでにありそうでなかった。そう、「ATH-CK100」こそ、真の“和製”モニターイヤホンと呼べる製品である。

こういったサウンド傾向を「温度感が低い」「カラフルさに欠ける」などと評する人もいるが、三菱電機のプロ用スピーカーやパイオニアのTADスピーカーがそうであるように、和製モニタースピーカーには特有のバランス感覚や音色趣向がある。「ATH-CK100」は、そういった日本ならではの、作りの細やかさやていねいさに基づいた、絶妙なセンスを有する優秀機であり、イヤホンでこの音を楽しめるという点においては貴重な存在といえる。

そこまでの感動をもたらしてくれた「ATH-CK100」だが、残念ながら購入する機会には恵まれなかった。すでに、近い音色を持つ「ATH-CK9」(とはいえ1ドライバーのためレンジは狭い)を所有していたことや、モニター系のリファレンスはオーバーヘッド型ヘッドホンで事足りていたという事情もあったが、筆者にとっても定価56,700円という金額はけっして手軽ではなく、何度も足踏みした結果として買わずじまいになっているだけである。特にSHURE「E5c」を自分の不注意で使用不能にした経験を持つ人間としては、おいそれと高級ヘッドホンに手を出しにくいというトラウマもある(笑)。そこで皆さんにオススメしたいのが、実際に筆者も手に入れた製品であり、2009年に発売された「ATH-CK90PRO」である。

オーディオテクニカ「ATH-CK90PRO」

事実上「ATH-CK9」の後継モデルといえる「ATH-CK90PRO」だが、そのサウンド傾向は一聴すると「ATH-CK100」までの流れとは異なって聴こえる。人によっては過剰と思えるくらいの繊細さは影を潜め、かわりにダイナミックな演奏を聴かせるようになったのだ。低音のノビや量感も(ATH-CK9に対して)格段に良好なバランスへと変化した。とはいえ、ピアノの音色は繊細な表現を描き出しているし、アコースティックギターも美しい響きを聴かせてくれる。基本的な音色傾向は、ほぼ「ATH-CK100」と同じといっていいだろう。確かに2ドライバーのため再生周波数帯域が多少不利で、帯域過渡特性も「ATH-CK100」ほど整い切っていない。ケースの素材の違いによるものか、余分な振動なども残っている。しかし逆にいえば、それらの要素がうまく働いてこの奔放なサウンドを作り出していることも事実なので、安易に否定はできない。よく言えば、「野趣あふれるATH-CK100」とも表現できる。


いずれにしろ、オーバーヘッド型ヘッドホンなどで和製モニター系サウンドに慣れ親しんでいる人、または興味がある人にはうってつけのモデルといえる。


総論 オーディオテクニカ ATH-CK90PRO

<オススメポイント> 安心できる破綻の少ない端正なサウンドを基本としながらも、迫力やダイナミックさは十分にある。
<ウイークポイント> 多少荒削りな面が残る。それが気になる人は「ATH-CK100」を選択するほうがベター。

解像度感 ★★★★☆
帯域バランス ★★★★☆
帯域過渡特性 ★★★☆☆
高域の質感 ★★★☆☆
低域の量感 ★★★★☆
グルーブ感 ★★★☆☆
装着感 ★★★★☆
デザイン ★★☆☆☆
コスト“音質”パフォーマンス ★★★★☆


総論 オーディオテクニカ ATH-CK100

<オススメポイント> 和製モニター系と呼ぶべきていねいで緻密な、表情の豊かなサウンド。
<ウイークポイント> 高価であること以外に一切の不満はない。アメリカ西海岸系のサウンドとは正反対の音色なので、多少好みが分かれるかも。

解像度感 ★★★★★
帯域バランス ★★★★★
帯域過渡特性 ★★★★★
高域の質感 ★★★★★
低域の量感 ★★★★☆
グルーブ感 ★★★☆☆
装着感 ★★★☆☆
デザイン ★★★★☆
コスト“音質”パフォーマンス ★★★☆☆

ソニー「MDR-EX1000」 ソニーらしいモニター系サウンドを実現した優秀機

ソニーといえば、レコーディングスタジオのリファレンスとして広く使われている「MDR-CD900」シリーズをはじめ、数々のモニター系ヘッドホンを有する、世界に名だたるヘッドホンメーカーである(もちろんヘッドホン以外にも世界に誇れるソニー製品は多々あるが)。それはイヤホンに関しても同様で、カナル型の登場こそ後発となるものの、ウォークマン登場とリンクした長い歴史と幅広いラインアップをこれまで続けてきた。

かくいう筆者もソニーのヘッドホンを10年以上の長きにわたり、リファレンスとして使い続けている。なかでも「MDR-CD1700」(1996年発売のオーバーヘッド型モデル)は、比較的リーズナブルな価格でありながら、音源のすべてを包み隠さず歪ませることもなくストレートに聴かせてくれる(もちろんハイエンドでない不利な点もある)ため、いまだに時々引っ張り出してきては音質チェックに活用しているほどだ。

もちろん、現在ラインアップされているモデルの中にも、すばらしい製品は多々ある。長くフラッグシップの座に君臨する「MDR-SA5000」の超リアルサウンドには頭の下がる思いだし、「MDR-F1」が生み出すグルーブ感は音楽の楽しさを再認識させてくれる。

しかしながら、ソニーというビッグネームに多大な期待を寄せてしまうのだろうか、ここ数年の新製品に光り輝くものがなかったのも事実だ。特にカナル型ヘッドホンは、実際に数モデルを所有してみたものの、あまりに素っ気ないサウンドだったり、逆に若者を意識しすぎてエフェクトが強すぎたりと、筆者が期待するような「ソニーらしい」サウンドを持ち合わせるものは残念ながら登場しなかった。佳作はあっても傑作はない、そういう状態が数年間続いていたのだ。

ソニー「MDR-EX1000」

ところが2010年の冬、ソニーはカナル型ヘッドホンに対して新しいアプローチを開始した。それが今回紹介する「MDR-EX1000」である。実はこの冬に発売されるソニーの新製品はほぼすべて聴かせてもらったが、「MDR-EX1000」以外のモデルはほとんど過去の製品の延長線上にあったし、期待以上のパフォーマンスを示してくれる製品も2つ3つしか見いだせなかった。それも佳作レベルであって、けっして傑作ではない。しかし「MDR-EX1000」(それと今回は触れないがオーバーヘッド型ヘッドホンの「MDR-Z1000」も)に関しては、多くのファンが求めているだろうソニーらしさや、モニターイヤホンとしての優秀さが見事に具現化されているのだ。


そのサウンドは、一聴するとメリハリが強い現代風なバランス。しかしよく聴けば、低域は解像度が高く芯もしっかりしていて、量感に頼りすぎるところがない。高域も鋭い響きでありながら、倍音成分や隣り合った帯域のそろいがよいため、嫌な刺激はいっさい感じない。ピークやディップがかなり押さえ込まれているため、音全体がクリアでリアル。また各帯域のタイミングのそろいもよく、グルーブ感も高い。まさにソニーらしいといえる、モニター系のサウンドだ。

コストという枠をちょっと広げてあげれば、ここまでの製品が生み出せるのである。この「MDR-EX1000」こそ、ソニーの持つヘッドホン・イヤホンに関するノウハウや実力を大いに実感できる、優秀機といえるだろう。


総論 ソニー MDR-EX1000

<オススメポイント> グルーブ感の高いダイナミックさと、細部のニュアンスまで余すことなく拾い上げる繊細さをあわせ持つ優秀機。
<ウイークポイント> 高価であることに加え、本体が耳から少しはみだす構造のため装着時の見栄えは好みの分かれるところ。

解像度感 ★★★★★
帯域バランス ★★★★☆
帯域過渡特性 ★★★★★
高域の質感 ★★★★☆
低域の量感 ★★★★☆
グルーブ感 ★★★★☆
装着感 ★★★☆☆
デザイン ★★★★☆
コスト“音質”パフォーマンス ★★★☆☆

評価ポイントについて

カナル型ヘッドホンに関しては、下記の9項目の評価ポイントを表記させてもらうことにした。満点は5点。このほか、音の密度感やボーカルのクリアさ、音の生々しさや熱気の高さなども評価ポイントに加えたいところだが、それらは複数の特徴によって作り上げられているメリットのため、文章内に表現するに留めている。

・解像度感……音の細やかさ
・帯域バランス……低音、中音、高音のバランス
・帯域過渡特性……ピークやディップなど音楽を阻害する要素の少なさ
・高域の質感……高域方面のノビや倍音成分のそろいのよさなどを総合評価
・低域の量感……ここでは絶対的ボリュームより最低域へのノビや質感を重視して評価
・グルーブ感……ノリのよさを示す項目で各帯域のタイミングがそろうと高評価となる
・装着感……装着に関する手間や違和感の少なさ
・デザイン……デザインのよさに加えて音漏れなどの機能性も考慮
・コスト“音質”パフォーマンス……音質の良さと金額の高さを相対する値として比較評価


ライター/野村ケンジ

ホームシアターやカーオーディオ、音楽・映像関連、クルマ分野など、幅広いジャンルで活躍するフリーライター。100インチスクリーン+TADモニターで6畳間極小ホームシアターを自宅で実践するなど、実験的な試みにも積極的にチャンレンジするこだわり派。サウンドコンテストの審査員なども担当している。

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