連載 - ライター・編集部員による定期連載 -

新連載 野村ケンジの「Paradiso della musica」(ムジカ・パラディーゾ) 

初心者にオススメしたい高級ヘッドホン入門 第1回

オーディオ・ビジュアル・ライターの野村ケンジ氏による新連載「Paradiso della musica」(ムジカ・パラディーゾ)がスタート! 本連載では、ヘッドホンやスピーカー、プレーヤー、アンプなど、毎回、オーディオに関するテーマを決めて、デジタルオーディオ時代の実力派製品を複数回にわたって紹介していく。連載1回目となる今回のテーマは「初心者にオススメしたい高級ヘッドホン入門」。計5回(予定)にわたって、野村氏がオススメする良音質のカナル型ヘッドホンを紹介する。

― 連載開始にあたり ― 世界は“高音質”という言葉であふれている

オーディオ・ビジュアル・ライターの野村ケンジ氏

iPodやPCオーディオなど手軽なオーディオ機器の流行もあって、世の中は「高音質」をアピールする音響製品が山のように存在するようになった。けれども、それらのすべてが本当の意味で高音質というわけではない。理由は簡単。「どんな尺度で」「何と比較して」高音質と断言したのか、各メーカーの基準がまちまちだからだ。


メーカーが自社製品の良さを最大限にアピールしたいのはごく当然なことで、音響製品を「高音質」とうたうこと自体は決して否定されるものではない。しかし、それはある程度の製品のクオリティがともなってこそ。玉石混交で一律に「高音質」と断言されても、何を買っていいのか判断に迷うばかりだ。そのうち、オーディオ業界の「高音質」という言葉自体に信用がなくなってしまうかもしれない。

そんな事態を危惧し、よりよいオーディオ製品を広く紹介すべく、この連載では多数の製品試聴経験に基づいて、特に良質な製品を厳選して紹介させていただこうと思う。具体的には、毎回テーマを決めて、そのテーマに沿った製品を連載形式で紹介していきたい。連載を続けて読んでいただくことで、テーマ別に、そのときの良質な製品の情報をまとめて知ることができるはずだ。

ちなみに、連載タイトル「Paradiso della musica」(ムジカ・パラディーゾ)は、イタリア語で「音楽の楽園」という意味。音楽がより一層楽しくなる製品を厳選してお届けできればと思う。

記念すべき初回のテーマは、「初心者にお勧めしたい高級ヘッドホン」。上質なカナル型ヘッドホンを全5回の予定で紹介する。

「初心者にオススメしたい高級ヘッドホン入門」
第1回 カナル型ヘッドホンブームの立役者たち

iPodのブームとともに広く普及したカナル型ヘッドホンだが、その代表格のブランドといえば、やはりSHUREとゼンハイザーだろう。両社とも、早い時期からバランスド・アーマチュア型ドライバーを使ったカナル型ヘッドホンを展開しており、エントリーから最上級まで、幅広いラインアップを用意しているのが特徴だ。第1回は、定評ある両ブランドの中でも、特に注目の製品を紹介しよう。

SHURE「SE535」 カナル型ヘッドホンの最上級モデル

「SE535」のブラウンモデル

SHUREは現在も幅広いラインアップを有しており、いずれも推薦に値する優秀機ばかりだが、なかでも一番にオススメしたいのは、最上位モデルのSE535だ。


高級ヘッドホン初心者に最上級モデル、しかも4万円前後の実売価格となる高級機をオススメするのはどうかと最初は考えた。しかしモニターヘッドホンとしても活用できる実力の高さと、演奏のノリや熱気をしっかりと伝えてくれるSHUREならではのサウンドキャラクターを両立させているという点で、SE535はとても魅力のある製品なのである。


もちろん、SHUREを買うなら必ずSE535を選べ、という強制はしない。何を隠そう、筆者も最初に買ったSHURE(というか最初に購入したカナル型)はE2c(実売1万円前後のエントリーモデル)だし、当時の最上級モデルE5cの購入に踏み切るまで、何度となく躊躇したのも事実だ。しかも、1年あまりでコードを引きちぎり使用不能になってしまったという、悲しい結末話まで付いている。しかしあのとき(当時としては)最高級に位置する製品を購入したことについて、いまでも本当によかったと思っている。ポータブルプレーヤーでも、かなり本気で音楽を楽しめることを教えてもらったからだ。

 

そういった経験を持つからこそ、カナル型ヘッドホンの高級モデル、特にSHUREの最上位モデルは真っ先にオススメしたい。もちろん、今すぐ買えなくてもいい。いつか手に入れたい憧れの存在として、心のどこかに留めていてくれればよいと思う。

さて、自分の話はここまでにしてSE535に話を戻そう。そのサウンドは、E5c、SE530という歴代モデルに対し、よりモニター系を意識したサウンドバランスへと発展した。さらにフラット&ワイドになった帯域特性によって、多少「冷静」かつ「薄味」なイメージのある音色傾向へとシフトしたが、SHUREが得意とするグルーブ感のよさは相変わらず健在。声や楽器にピタリとフォーカスのあった、ノリのよい演奏を存分に楽しませてくれる。

ちなみにSE535は、ブラウンとクリアのカラーバリエーションが用意されており、カラーによって音の傾向が多少異なるというウワサがある。その真偽を確かめるべく、今回はブラウンとクリアの新品を両方用意し、同条件でエージング、聴き比べを行ってみた。

すると確かに、音の傾向が少し違う。よく制御され質感の高い音を聴かせてくれるブラウンに対し、クリアはもう少し暴れ馬というか、奔放な印象。音が整いきらない雑多さをわずかに残すものの、その分、空間的な広がりは明らかに勝っている。これは多分、ケース内にメッキ加工がされているか否かの差によるものだろう。両者の差を感じ取ってしまった人は、質感を取るか空間表現を取るか迷うかもしれない。とはいっても、2つの差はよく聴き比べればというレベルなので、どちらを選択するかはあくまで好みの範疇だろう。

いきなりSE535は敷居が高い、という人に向けてはSE315をオススメしておこう。バランスド・アーマチュア型ドライバーの数が3つから1つになり、その分低音のボリュームがだいぶ寂しくなるものの、SHUREらしいリズム感のよさ、声の生き生きとした印象はたっぷりと受け付いている。音楽を解像度的に見るのではなく、ノリを重視して楽しみたいという人には、こちらも充分魅力的な製品に映るはずだ。

「SE315」のクリアモデル


総論 SHURE SE535(クリア)

<オススメポイント> 音楽のノリのよさや歌声のリアルさを重視して音楽を楽しみたい人にはぴったりの製品。
<ウイークポイント> SHUREの最上位機種が4万円前後で手に入るとはいい時代になった。しかしそれでも4万円は大いに悩む価格。

解像度感 ★★★★☆
帯域バランス ★★★★★
帯域過渡特性 ★★★★☆
高域の質感 ★★★★☆
低域の量感 ★★★★★
グルーブ感 ★★★★★
装着感 ★★★★☆
デザイン ★★★★☆
コスト“音質”パフォーマンス ★★★☆☆


総論 SHURE SE315(クリア)

<オススメポイント> より現実的な価格でSHUREサウンドを満喫できる。スペックには現れない魅力あるサウンド。
<ウイークポイント> 1ドライバーのため低域の量感が不足。

解像度感 ★★★☆☆
帯域バランス ★★★☆☆
帯域過渡特性 ★★★☆☆
高域の質感 ★★★★☆
低域の量感 ★★☆☆☆
グルーブ感 ★★★★★
装着感 ★★★★☆
デザイン ★★★★☆
コスト“音質”パフォーマンス ★★★★☆

ゼンハイザー「IE8」 高いサウンドクオリティを実現

ゼンハイザーのカナル型ヘッドホンの最上位機種「IE8」

SHUREと双璧をなすカナル型ヘッドホンの雄、ゼンハイザー。こちらのブランドでオススメしたいモデルは、やはり最上位機種の「IE8」となるだろう。


高額な製品ばかりの推薦となってしまい、申し訳ない気持ちも少なからずあるのだが、IE8は、その音を聴いたとたん、同じゼンハイザー製の下位モデルがことごとくかすんでしまう実力差を持ち合わせているのだから仕方ない。それほどまでに、ゼンハイザーのラインアップのなかでもIE8は特別な存在となっている。


その差はずばり、サウンドクオリティだ。解像度、帯域バランス、帯域過渡特性など、音質をことごとく評価する項目において、圧倒的にすぐれているのが本製品。まさに、理想型の「モニターヘッドホン」を体現したかのような、素晴らしい優秀さを誇っている。


正直な話をすると、センハイザー製品、特にモニター系のヘッドホンに関しては、カナル型もオーバーヘッド型も個人的にあまり好みとはいえなかった。理由はあまりにもモニター然としたサウンド傾向により、音楽を楽しく聴くことができないと感じてしまったからである。


しかしIE8は、そういった思い込みを一新させてくれた。音楽情報を一切変質させず、そのままストレートに聴かせてくれることで、演奏をよりリアルに、かえって生々しく感じ取ることができるのだ。そういった素の音のよさを素直に感じさせてくれることが、IE8ならではの、他には真似のできない唯一無二の価値だといえる。


IE8には憧れるが、さすがに4万円前後の価格にはなかなか手が出ない、という人にはIE6をオススメしよう。こちらは同じイヤーモニターシリーズの末弟機で、音色傾向も近いが、さすがにIE8レベルのフラット&ワイドとはいかず、高域にモニター系ならではの鋭さが伴う。試聴して高域に嫌さを感じなければ、こちらも充分魅力的な選択肢となるだろう。

コストパフォーマンスにすぐれる「IE6」


総論 ゼンハイザー IE8

<オススメポイント> 理想のモニターヘッドホンといえるフラット&ワイドとリアルさが魅力。
<ウイークポイント> やはり4万円は大いに悩む価格。

解像度感 ★★★★★
帯域バランス ★★★★★
帯域過渡特性 ★★★★★
高域の質感 ★★★★★
低域の量感 ★★★★☆
グルーブ感 ★★★★☆
装着感 ★★★★☆
デザイン ★★★★☆
コスト“音質”パフォーマンス ★★★☆☆


総論 ゼンハイザー IE6

<オススメポイント> モニターヘッドホンとしての優秀さが光る。
<ウイークポイント> モニター系ならでは高域の鋭さが好みの分かれるところ。

解像度感 ★★★★☆
帯域バランス ★★★★☆
帯域過渡特性 ★★★★☆
高域の質感 ★★★★☆
低域の量感 ★★★★☆
グルーブ感 ★★★☆☆
装着感 ★★★★☆
デザイン ★★★☆☆
コスト“音質”パフォーマンス ★★★★☆

評価ポイントについて

カナル型ヘッドホンに関しては、下記の9項目の評価ポイントを表記させてもらうことにした。満点は5点。このほか、音の密度感やボーカルのクリアさ、音の生々しさや熱気の高さなども評価ポイントに加えたいところだが、それらは複数の特徴によって作り上げられているメリットのため、文章内に表現するに留めている。

・解像度感……音の細やかさ
・帯域バランス……低音、中音、高音のバランス
・帯域過渡特性……ピークやディップなど音楽を阻害する要素の少なさ
・高域の質感……高域方面のノビや倍音成分のそろいのよさなどを総合評価
・低域の量感……ここでは絶対的ボリュームより最低域へのノビや質感を重視して評価
・グルーブ感……ノリのよさを示す項目で各帯域のタイミングがそろうと高評価となる
・装着感……装着に関する手間や違和感の少なさ
・デザイン……デザインのよさに加えて音漏れなどの機能性も考慮
・コスト“音質”パフォーマンス……音質の良さと金額の高さを相対する値として比較評価


ライター/野村ケンジ

ホームシアターやカーオーディオ、音楽・映像関連、クルマ分野など、幅広いジャンルで活躍するフリーライター。100インチスクリーン+TADモニターで6畳間極小ホームシアターを自宅で実践するなど、実験的な試みにも積極的にチャンレンジするこだわり派。サウンドコンテストの審査員なども担当している。

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