連載 - ライター・編集部員による定期連載 -

鈴木ケンイチの「クルマ好きのための“弾丸”試乗レポート」 第26回 

ふたつの視点から見る「テスラ ロードスター」の魅力

米国・シリコンバレーのEVベンチャー企業「テスラモーターズ」(以下、テスラ)が手がける、ピュアEVスポーツカー「テスラ ロードスター」。その販売終了が間近に迫ってきた。現状では、右ハンドルの注文は終了し、残りは左ハンドル仕様のみ。それも、年内には予定数を終えてしまうことが予想されている。そこで、最後のインプレッションとして、モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がこのクルマをレポートする。

「テスラ ロードスター」は、2010年5月に日本国内での販売を開始。テスラは、同年10月に青山にショールームをオープンし、11月から、バージョンアップした「ロードスター2.5」を販売している。価格は「テスラ ロードスター2.5」が1,276万8,000円。上級の「テスラ ロードスター スポーツ2.5」が1,481万5,500円。リチウムイオンバッテリーは16万kmライフサイクル以上を確保するという

オリジナルのパワートレインに既存の電池とシャシーをドッキング

世界限定2500台で2008年から生産がスタートした「テスラ ロードスター」。それから約4年をかけて、テスラは北米や欧州、アジア地域など世界数か所に販売拠点を作り、クルマを販売してきた。そして、あと少しで予定の2500台に達するという。これからやってくるEV時代の幕を開ける存在となった、ピュアEVスポーツカーだ。

「テスラ ロードスター」は、非常に興味深い存在だ。そして、その内容は、ふたつの視点から見ると、より理解しやすくなる。ひとつは「ピュアEVスポーツカー」というプロダクトとしての観点。もうひとつは世界中が注目するベンチャー企業・テスラが世に送り出す最初の製品という側面だ。

ひとつめとなるプロダクトの特徴から説明しよう。「テスラ ロードスター」のEVとしてのアイデンティティーの源となるモーターは、テスラオリジナルの交流誘導(インダクション)モーターだ。日本製のほとんどの量産EVが採用する交流同期モーターとは異なり、交流誘導(インダクション)モーターは永久磁石を使わない。つまり、高性能な永久磁石に必須のレアアースが必要ないというメリットがある。最高出力は215kW(288PS)、最大トルクは上級モデルの「テスラ ロードスター スポーツ」で400Nm、スタンダードの「ロードスター」で370Nm。最高回転数は14000回転に設定されている。最高出力は驚くほどではないが、トルクの大きさは、車両寸法を考えると十分以上に強力なスペックだ。

「テスラ ロードスター」のバッテリーは、パソコンなどにも使われる汎用タイプ(18650型)のリチウムイオン電池を数千本並べて使用するもの。搭載電池容量は56kWh。これは、日産リーフの24kWh、三菱iMiEVの16kWhと比べて、2倍以上の量だ。汎用電池を採用することのメリットは、価格がこなれており、品質面でも一定の水準を維持できること。また、数多くの小さな電池を使うため、結果的に電池のトータルの表面積が多くなり、冷却面でも有利となる。いっぽう、数多くの電池を均等に使うための緻密な制御が必要というデメリットもある。しかし、その制御技術をものにした点はテスラの強みだ。バッテリーを大量に搭載することで、1回の充電における航続距離のカタログスペックは394kmとなっている。航続距離が200km前後である日本の量産EVと比較すると、これも電池容量と同じく、2倍ほどとなる。

充電方式はテスラ独自のもので、クルマ側に変圧などを行う充電装置を備え、100V15Aから200V40A、200V70Aまでの送電に対応する。単純計算でいえば100V15Aで1時間に送れる電力は、1.5kWh、200V40Aなら8kWh、200V70Aなら14kWhとなる。乱暴な計算をすれば56kWhの電池に必要な電力を200V70A(1時間あたり14kWh)で充電すれば、4時間で済むのだ。もちろん、電池の過熱を防ぐためには、それほど単純にはいかないだろう。また、70Aの送電インフラも日本では一般的ではない。だが、高額なオープンスポーツカーという立ち位置ならば、「それほど頻繁に長距離を走るわけではない=充電に時間がかかっても1充電での走行距離が長ければ問題ない」「高額なスポーツカーを購入するようなユーザーにとって、充電インフラ設置の費用負担も苦ではない」と考えてもいいだろう。ちなみに公式には「専用のハイパワーコネクターを使えば、約1時間(200V)で100km走行分の充電ができる」とアナウンスされている。

テスラ独自の充電方式を採用。クルマ側に変圧などを行う充電装置が備わっている

また、シャシーは、「ロータス エリーゼ」のものを採用。とはいえ、EV化にあたり相応の大きなカスタムが実施されており、サイズ的にも「テスラ ロードスター」は「ロータス エリーゼ」に対して、全長で141mmも拡大しており、見た印象でもひと回り大きくなっている。また、車両重量は2723ポンド(1235kg)で、ライトウェイトスポーツである「ロータス エリーゼ」の約900kgから、大きく増加している。

「テスラ ロードスター」のサイズは、全長3941×全幅1851×全高1126.5mmで、ホイールベースは2351mm。0−97km/h 加速は、「ロードスター」で3.9秒、「ロードスタースポーツ」で3.7秒。最高速度は201km/h、航続距離は394km。最高出力は215kW(288馬力)。最大トルクは、「ロードスター」で370Nm、「ロードスタースポーツ」で400Nm。電池容量は56kWh

モーターのパワーをトコトン楽しめるクルマだ

試乗にあたっての最初の説明は「このクルマにはパワステはついていません」だった。ここで、「1000万円オーバーのクルマなんだから、当然、ラグジュアリーなスーパースポーツ」という勝手な思い込みは木っ端みじんとなった。冷静に考えれば、ベースは硬派で鳴らすスポーツカー「ロータス エリーゼ」だ。しかもオープンカーであって、雨風をしのぐルーフは静粛性や耐候性的に不利な布製だ。

室内を見れば、カーボンやレザーを多用しているけれど、意匠はシンプルそのもの。センターコンソールにある小さなモニターと「P(パーキング)」「R(後退)」「D(前進)」「N(ニュートラル)」のボタンが、わずかにEVをアピールする部分。全体としてはクラシカル感さえ漂うスポーツカー然としたものであった。

運転席/助手席用のエアバッグのほか、盗難防止のイモビライザーも搭載。エアコン&ヒーターも装備する。シートにはヒーターを内蔵。ドリンクホルダーは、センターコンソール下に装備される

センターコンソール部には、iPhone用の充電用ドックも装備。センターコンソールにあるモニターに、航続可能距離などの情報が表示される。ペダルはブレーキとアクセルのみ。何とも簡素な作りだ

外観やルックスは伝統的なスポーツカーそのものの「テスラ ロードスター」だが、走り出すとEVという新しい乗り物であることが、すぐにわかる。

アクセルを踏み込むと、完全停止の状態から、なんの振動もなくスッと動き出す。EVだから、当然、アイドリングの振動もないし、クラッチ操作もない。あっけなさすぎて、なにかもの足りないような気さえする。トルク感は、下からドカン! ではなく、意外にスムーズ。回すほどに伸びやかにパワーが引き出されるフィーリングだ。もちろん変速機構はないので、加速は途切れない。その上で強烈に速い。0−97km/hの公式タイムは3.7秒。これは「ポルシェ911ターボ」に匹敵する数字だ。この猛烈な加速時に聞こえるのは、空気を切り裂く音と、タイヤが路面を蹴り出す音。そして、遠くに聞こえるモーターのうなり。この加速感こそが、従来ある内燃機関エンジン&ミッションでは味わえないEVならではのものだ。

走行モードは距離優先の「Max Range」、ノーマルモード、パワー優先の「Performance」の3つがある。電費優先の「Max Range」とパワー優先の「Performance」の違いは、加速力の違いで体感できる。正直、「Max Range」でも十分に強烈だと思うのだが、「Performance」は、さらにひとつ上のレベル。あきれるほどだ。

また、「テスラ ロードスター」の減速エネルギー回生の作動感はかなり強い。街中でアクセルをオフにすると、グッと、かなりの大きな力で減速力が生まれる。街中では、減速エネルギー回生をブレーキとして使い、最後の最後の完全停止の前にだけブレーキペダルを踏むという走り方ができる。つまり、アクセルひとつでスピード調整のほとんどが行える。運転が楽なのだ。それでいて、速度の高い時の減速力は小さく調整してあるため、ギクシャクせずに走ることができた。

ちなみに、駐車スペースから「テスラ ロードスター」を外に導くときのステアリング操作に必要な力は、それなりに大きい。「重ステ」が“硬派”と呼ばれるのも道理だ。しかし、そのステアリングの重さは、走り出してみれば、まったく気にならないほど軽くなる。逆に、「減速でステアリングの手応えが若干重くなる=前輪に荷重がかかっている」、「加速では軽くなる=荷重が抜けている」という、タイヤにかかる荷重の大きさが、文字通り手に取るようにわかるのだ。タイヤのグリップ力は、タイヤにかかる荷重が大きくなるほどに大きくなる。つまり、ステアリング操作の重みを使ってタイヤのグリップ力を知るという、スポーツカーならではの硬派な走りが「テスラ ロードスター」では味わうことができたのだ。

2眼メーターの右は、パワーメーター。電力の消費/回生を表示する。右に回るほど消費し、左に行くほど回生を行っていることを示す。左が速度メーター&回転計。変速装置がないため、速度と回転数が比例するわけだ

気になる実際の航続距離はどうか? 取材日は残暑厳しい9月上旬。エアコンをしっかりと効かせて、テスラのディーラーのある東京・青山から千葉・富津を目指した。スタート時のバッテリー残量は10目盛りのうち10の満タンだ。スタート地点で走行可能距離として表示されたのは「Max Range」で366km、「Performance」は328kmであった。

千葉・富津までは片道約75km。そこまで「Max Range」で走り、撮影を終えた時点での電池残量は、残り7.5目盛りであった。4分の1の電池を使って75kmを走れたことを考えると、まだ225kmほどは走れる計算となる。そこで、もう一度、モニターに走行可能距離を表示させると、「Max Range」で291km、「Performance」では251kmと表示された。実走行とあわせると326〜366km。航続距離394kmというカタログに近い数字だ。

帰り道は「Performance」モードで。青山のテスラの本拠地に戻ったときのオドメーターは138km。電池残量は6目盛り。この日の走りで簡単に計算すると1目盛りで35kmほど走れ、10目盛りでは350kmほど走行可能となる。また、残り6目盛りでモニターに表示される走行可能距離は「Max Range」で218km、「Performance」では179kmであった。合計は317〜356kmという数字。この日の僕の走りならば、320〜350kmを走行できそうだ、という結果となったのだ。

「テスラ ロードスター」を1日かけて走らせて感じたのは、「これは本物のスポーツカーである」ことだ。モーターという新しい動力源が生み出す強烈な加速は、エキサイティングそのもの。内燃機関がなくとも、クルマが持つ根源的な魅力「走る楽しみ」を備えた乗り物。それが「テスラ ロードスター」であったのだ。

経営面でクレバーかつ着実に歩みを進める

プロダクトとしての「テスラ ロードスター」は、エキサイティングで魅力にあふれていた。そして次は、もうひとつの「世界中が注目するベンチャーが送り出した最初の製品」という側面から「テスラ ロードスター」を見てみよう。

「テスラ ロードスター」を製造するテスラ社は、2003年に設立された若い会社だ。率いるのはイーロン・マスク氏。若くして電子決済システム「PayPal」などを世に送り出して成功を収めた。現在は、テスラだけでなく、宇宙開発ベンチャーの「スペースX」や太陽光発電の「ソーラーシティ」のCEOも務めるカリスマ的な経営者だ。テスラの販売および顧客担当副社長を務めるジョージ・ブランケンシップ氏は、かつてアップル社において「Apple Store」を生み出した経歴を持つ。また、技術陣トップのジェービー・ストローベル氏はテスラの創設メンバーの1人であり、かつては航空宇宙会社「バラコム」の共同設立者の1人に名前を連ねている。バッテリー技術部門のトップは、元パナソニックで長年バッテリーを研究し、16以上の特許を取得しているカート・ケルティー氏。まさにそうそうたる面々だ。

そうした優秀なスタッフをそろえたテスラは、最初のプロダクトとして、2006年に「テスラ ロードスター」のプロトタイプを発表。2008年から生産を開始した。

テスラがユニークなのは、最初のプロダクトとして「高性能なオープンスポーツカー」を選んだところにある。これまではEVを開発する場合に、「EVのフィールドはシティユース。ならば、コミューターを作ろう」となるケースが多かった。実際に、多くの自動車メーカーは、そうしたアプローチを取っている。しかしテスラは、まったく別の道を狙った。そして、これがベンチャーとして非常に有利に働いたのだ。

どういうことかと言えば、「シティコミューターでEVを作る」ことを想像してほしい。シティコミューターは、「安価」であることが求められる。高額で高級な街乗りのクルマなど、誰も欲しがらない。また、市場にはガソリンエンジン車のコンパクトカーという非常に手強いライバルが存在する。そのため、クルマのクオリティには高いレベルが求められるし、利益を出すために大量生産&大量販売する必要性もある。技術も生産ノウハウも販売網も、すべての面で高いレベルが要求されるのだ。

それに対して「高性能のオープンスポーツカー」は、求められるものが異なる。まず、走りがすばらしければ、少々値段が張っても問題ない。鮮烈な走りと比べれば、快適装備や内装の豪華さや緻密さも必要性は低い。もちろん、いきなりの大量生産も求められない。そして、なによりのメリットが、テスラのオリジナル製品であるパワートレインを「強烈な加速!」というわかりやすい形で存分にアピールできることだ。

また、クルマに必要なものすべてを自前でそろえようとしなかったのも、リソースの少ないベンチャーとしては賢い選択だと言えるだろう。自分たちで最初はパワートレインだけを開発し、シャシーと電池は既存の物を利用する。しかも、いつまでも借り物で済ますのではなく、「テスラ ロードスター」の販売と並行して、オリジナルのプラットフォームを開発。そのプラットフォームと、従来からあるパワートレインとを組み合わせて、第2弾プロダクツであるミドルセダンの「モデルS」を完成させている。こちらの生産は2012年にスタートし、2013年には年間2万台を計画している。価格も「モデルS」は、だいたい「ロードスター」の半値ほど。ちょっと高いけれど、普通の人でも手が届く価格帯に入ってきた。しかも、この夏には、第3弾プロダクツとなるSUVの「モデルX」も発表。リソースの少ないベンチャーでありながらも、着々と技術開発を進め、新しい製品を生み出し続けているのだ。

そのいっぽうで、テスラは、経営面でも順調に力を増してきた。2009年5月には、ダイムラー社がテスラの株の5000万ドル分を取得。これによりテスラは、ダイムラーの「スマート」「メルセデス・ベンツ Aクラス」のEVモデルにEV用パワートレインの部品を供給することになったのだ。さらに2009年にはアメリカ政府から4億6500万ドルの融資を引き出す。そして2010年5月にはトヨタからの融資と提携を得る。またトヨタとGMが撤退したNUMMI工場を入手。6月には株式上場を果たした。着実に経営環境を整えてきたのだ。

テスラの歴史は、まだ始まったばかりだ。現実的には2000台を少し超えるだけの製品を世に送り出しただけである。しかし、テスラのプロダクツは、新しく発表されるたびに内容が充実し、価格も手ごろになり、さらに販売目標台数も大きく伸びている。もしも、すべてが順調に進めば、10年後・20年後のテスラは、現在のアップル社のような、オンリーワンのブランド力を備えているかもしれない。プロダクトと会社の歩みを見るほどに、そんな愉快な夢を抱かせるのもテスラの大きな魅力なのだろう。

フロントのカウル内には、ラジエーター類が備わる。リヤのカウルを開けると、小さなトランクスペースが現れる。その前にあるのがバッテリーとモーター&インバーターだ。パワートレインの搭載は、いわゆるミッドシップレイアウトとなる

モータージャーナリスト/鈴木ケンイチ

新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材、ドライブ企画まで幅広く行う。いわば全方位的に好奇心のおもむくまま。プライベートでは草レースなどモータースポーツを楽しむ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事。

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