「新型」というよりも「新生」。そう表現したくなるくらい大きな進化…
(2013年6月19日掲載)
2012年6月2日掲載
2012年6月1日より、フォルクスワーゲン(VW)の新型モデル「ザ・ビートル」の日本での発売が開始された。「ビートル」という、VW社にとって非常に重要な名前が与えられた新型車は、いったいどのようなモデルなのだろうか? VWグループジャパンのマーケティング担当者へのインタビューもあわせて、モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏がその内容や狙いを紹介する。
フォルクスワーゲン(VW)社にとって「ビートル」というクルマは特別な存在だ。なぜなら黎明期のVW社にとって、「ビートル」は同社が生産する唯一のクルマであったからだ。ちなみに、「ビートル」は、1960年ごろから通用する愛称であり、正式名称は「1200」「1500」というような排気量に対応するもの。つまり、かつては「VW」=「ビートル」であったのだ。
ここで少し前提となる歴史のおさらいをしたいと思う。VWの名称には「フォルクス(国民)のワーゲン(車)」という意味がある。大仰な名称になっているのは、クルマの誕生のきっかけが、第二次世界大戦前にドイツ政府が主導した「国民車構想」にあるからだ。「国民車構想」とは「庶民に手の届く価格の高性能車」というもので、開発はフェルディナンド・ポルシェ博士に委ねられる。名前からもわかるように、博士とは後のポルシェ社の創始者である。
そのポルシェ博士の手によって、「国民車構想」で求められた「高性能」「低価格」を実現するプロトタイプが1938年に完成。「Kdf」という名前が与えられた。だが折悪く、直後に第二次世界大戦が勃発して「国民車構想」は頓挫してしまう。
それでも、クルマの持つポテンシャルの高さは見る人が見ればわかったのだろう。戦後に工場を管理するために進駐してきたイギリス軍少佐の手によって、「Kdf」は「VW」と名を改められて生産が再開されることになった。第二次世界大戦を乗り越えて、ようやく「国民のためのクルマ」が民間向けに販売されるようになったのだ。
コンパクトでありながら、大人2人と子供2人が乗車でき、高速走行もしっかりとこなし、確かな信頼性と手頃な価格を実現したのが「国民車構想」の条件であり、それをクリアしたのが「VW」であった。そのクルマとしての魅力はヨーロッパだけではなく、アメリカをはじめ世界中で認められて大ヒットする。1972年に生産台数は1500万台を突破。それまでのレコードホルダーであった「T型フォード」を抜いて、単独モデルとしては世界最高に。そして生産は誕生から65年となる2003年まで続き、最終的には2153万台が生み出される。文句なしで20世紀を代表する名車となったのだ。
「ザ・ビートル」の日本発売に先がけて実施されたメディア向け試乗会では、エクステリアデザインを手がけたデザイナーのクリスティアン・レスマス氏によるプレゼンが行われた。我々の目の前でオリジナルの「ビートル」、先代の「ニュービートル」、新しい「ザ・ビートル」のシルエットを描きながら、それぞれのデザイン上のポイントを説明したのだ。ある意味、この時点で「ザ・ビートル」が、いかにデザインありきのクルマなのかがわかる。
レスマス氏の説明をかいつまめば、デザイン上の重要ポイントは、真横から見たときのルーフの頂点にある。乗員4人の居住性を確保するためにオリジナル「ビートル」のルーフの頂点は真ん中よりも後方にあった。そして先代「ニュービートル」は、ルーフのほぼ中央。これはデザインをバウハウス的にデフォルメした結果だ。後部座席の頭上空間の確保より、デザイン性を優先したとも言える。
ちなみに先代「ニュービートル」が生まれた1994年には、古いクルマのデザインをモチーフにした新型車は存在していなかった。そうした中で生まれた先代「ニュービートル」のデザインの斬新さは、世界中で喝采を集めることになる。そして、先代「ニュービートル」は累計100万台以上が生産されるヒット車になり、また、BMW「NEW MINI」やフィアット「500」というフォロワーを生み出すことになったのだ。
話が脱線したが、その斬新なデザインで世界を席巻した先代「ニュービートル」の後を継ぐモデルである「ザ・ビートル」のルーフのピークはどこにあるのか? それはオリジナル同様に中央よりも後方にあった。レスマス氏は「ここに意味がある」と主張するのだ。
つまり、初代は「ファニー」や「レトロ」といった狙いではなく、合理性を突き詰めた結果としてルーフのピークが後退していた。2世代目の「ニュービートル」はデザイン優先なので、ピークは中央に。しかし、今回の3世代目「ザ・ビートル」は、オリジナル同様に後退している。つまりオリジナルと同じように合理性を求めたというわけだ。VWは「ザ・ビートル」を「21世紀のクルマとしてビートルを再創造した」という。昔の名車を懐かしむだけでなく、その存在意義や性能面までをも現代に復活させようというわけだ。
大ヒットした実写映画(初代「ビートル」)を、デフォルメのアニメ(2世代目「ニュービートル」)にして大ヒット。リバイバルで生まれた新世代(「ザ・ビートル」)は、先代と同じアニメであるが、「よりリアルな劇画にしてみた」というイメージだろうか。